有馬は、この激変期について、「10倍速の時代。自動車業界で100年かけて起きていた変化が、この10年で起きる」と表現する。難しい局面で舵取りを任された有馬が掲げたのは「共感を呼ぶ会社」だ。
──社長就任以降、自社の置かれた状況をどのように認識していたか。
危機感だ。トヨタから分離した創業期は人員削減もしながらの苦しい旅立ちだったが、国のため、車のためにという思いで乗り切った。ただ、当時は「車の原理」が変わったわけではなく、サプライヤーの仕事がなくなる不安はなかった。一方、いまは「モビリティの原理」に変化が起き、仕事がなくなるかもしれない。会社全体が変わらないといけないという意識があった。
──17年3月は増収増益で、直近の業績は好調。現場は危機感を抱きにくい。
まさにそれが経営課題だ。当社にのんびり構えている人はいないが、3〜5年先を考えると「いま、その仕事をしていていいのか」「必要な仕事だが時間をかけていいのか」と。目の前の仕事が忙しく、発想の転換ができていない。リーマン・ショックなどで仕事がない時には、危機意識が従業員にもあった。いまは大きな変化が起きているのに、それがない。気づいてはいるが、好調なだけに現状に満足している面がある。居心地の悪いところにいかないと将来はない。「危機感の醸成」が急務だ。
──変革期をどうやって乗り切るか。
スピードと現場の活力を引き出していく。その結果、やりたいこと、やれることが増えて、お客様や地域社会、そしてグローバルで貢献ができる。経営数字もついてくる。当社はものづくりにプライドを持っているが、現場はこだわりが強すぎて、「あれもこれもチェック」と管理を増やす傾向がある。それを10分の1にしたい。ファクトリーIoTを進めて、人間が管理したふりをしていた項目は機械に任せる。マインドセットを「改善、新規事業」の方向へ変えれば、人間の知恵を、付加価値を高める活動へシフトできる。