日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は今年7月、第三者評価機関のESG評価に基づく「ESG投資」を始めたと発表した。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の略。ESG評価は企業のこの3要素のリスクを総合的に評価する。
裏を返せばGPIFは、たとえ業績がよくてもESG評価が低い企業には投資しない(ファンドから外す)という判断を行うことになる。GPIFの2017年6月末時点の運用資産額は約150兆円。そのうちESG投資は約1兆円からスタートし、3〜5年かけて国内株投資(約37兆円)の9%に当たる3兆円程度にまで増やす予定だという。
”世界最大の機関投資家”であり、公益性の高い公的年金を運用するGPIFが投資指標として採用したことで、ESGは一気にキーワードに躍り出たといえる。
ESG投資はグローバルでは10年ほど前から増え始め、近年はESGファンドの本数、純資産総額ともに大幅に増加している。
GPIFが今回、EGS投資の基準としている「MSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数」の算出と分析を行っているMSCI(本拠地:アメリカ・ニューヨーク)マネージングディレクター内誠一郎は、「ESGが世界で注目されるようになったのは、世界金融危機によって露呈した投資の『ショートターミズム(短期志向)』に対する反省からです」と説明する。
金融業界は四半期を成績の基準としている。機関投資家は四半期ごとにいかにファンドパフォーマンスを上げるかという基準のみで銘柄選択をしており、欧米では特にその傾向が顕著だった。そうした投資家の要求に呼応するように、経営者も近視眼的な企業経営を行う。
「最大限にレバレッジを効かせ、次の四半期の業績をいかに上げるかということに注力していた。世界金融危機ではそれが逆回転し、世界中が大混乱に陥った。長期的に安定した成績が求められる機関投資家にとって、四半期ごとの業績を追いかける資産運用のあり方自体が間違っている。今期10%増えて、来期5%減るといったジグザグの成長より、長期的に安定した成長を取るのがポートフォリオに大切なのだと気付いた」と内はいう。
そこで、ロングターミズム(長期志向)の視点で、20年、30年という長期的に持続的成長を企業にもたらすものとして(または成長を阻むリスクとして)、ESGが重視されることになったのだ。
一方、日本においてはESGを踏まえた経営は親和性が高かった。近年、環境、社会、ガバナンスといった要素が企業にとって重要であるという認識は、経営者側にも投資家側にも、高まってきていたからだ。