京都議定書の調印より今年で20年。多くの企業がCSR(企業の社会的責任)を重視し、廃棄物対策、クリーンエネルギー、カーボンオフセット、植林など「環境」への取り組み、地域貢献活動やセキュリティ対策、健康経営、働き方改革など「社会」的な取り組み、経営の透明化、コンプライアンスの強化など「ガバナンス」への取り組みを個別に行っており、投資家はそれらの取り組みを個人的に価値評価して投資判断の基準にしてきたところがあるのだ。
しかし投資家がリターンを考えて投資判断基準とする場合、それらが企業価値≒投資パフォーマンスにどれほど影響を与えるのか判断が難しいという課題があったのも事実だ。同じ活動を行っても、業績に与える影響は、産業によって異なるからだ。
たとえば住宅メーカーが山林を保有し植林活動を行うことは、将来の経営資産の安定確保に直結し企業価値を高めるが、IT企業が行ってもほとんど企業価値は高まらない。むしろ経営者の自己満足やパフォーマンスというマイナスの見方をされかねない。IT企業は教育など人的資源開発を行った方が企業価値は高まるだろう。
産業ごとに評価基準が異なる
ESG評価は、企業が行う環境、社会、ガバナンスの取り組みのうち、その産業の企業価値に影響を与えやすい要素を産業ごとに設定し、評価基準としている点がポイントだ。MSCIは、金融、通信サービス、情報技術、不動産、ヘルスケアなど69の産業に分け、37の判断基準のなかから産業ごとに6〜10の判断基準(キーイシュー)を選定している。
評価基準は、Eでは「二酸化炭素排出」「水資源枯渇」「生物多様性と土地利用」「有害物質と廃棄物管理」、Sでは「労働マネジメント」「製品サービスの安全性」「プライバシー&データセキュリティ」、Gでは「取締役会構成」「会計リスク」「公正な競争」「租税回避」などがある。
これらの基準に照らし合わせ、外的要因(気候風土や地政学リスクなど)と、内的要因(取り組み)の2つの軸から評価する。世界6000社以上、日本企業は約500社を、AAAからCCCまで7段階で格付けを行っている。
「今後、われわれのESG評価を経営の判断軸の一つにしていってもらいたいと考えています。ESGリスクを排除し、高評価を得ていくことは、企業の20年後、30年後の利益を守ることに繋がるからです」と内は言う。
むしろ、これまで事業とのシナジーがよくわからずに行ってきたCSR活動のうち、自社がどの活動を優先的に行えば、環境にも、社会にも、事業にも貢献できるのか。ESG基準の導入によって明確化できるのではないだろうか。