エンジェル投資家の川田尚吾は、同社の設立直後に投資を実行した。
洛西:初めてお会いしたのは2007年です。スマートニュース現社長の鈴木健さんに「プレゼンしてみろ」と紹介されたのが川田さんでした。そのプレゼンの2週間後に投資の話をいただき、米国での創業についても助言いただきました。
シリコンバレーで挑戦したいという思いが強かったのは、マイクロソフトやグーグルの手法を学ぶ必要性を痛感していたから。高校時代に開発したスクラップブックソフト「紙copi」を通じて、日本の優良なソフトウェアが海外プロダクトに駆逐されるのを目の当たりにしました。ただ結果的に、米国滞在から3年で資金が底を尽き、日本へ帰国しましたが、川田さんに励まされ続けて今のNOTAへとつながっています。
川田:投資する時の方向性は2つです。ぼくが研究畑出身なので、エンジニア起業家に頑張ってほしい。そして日本発で世界を目指せるようなサービスを担ぎたい。圧倒的なプロダクトセンスをもつ彼は、明らかにその2点に合致していたのです。
投資してから10年、普通の職業投資家なら損切って割り切る場面もありました。ただ、ぼくにとっても初めての投資案件だったし、彼のような才能と実績のあるソフトウェアエンジニアが世に出て来ないのはおかしい。支え続けたのは、“意地”ですね。彼の帰国時に「追加投資するから1年で黒字化してほしい。できなければ会社は解散」と伝えました。洛西さんの頑張りもあり、NOTAは無事黒字化しました。
洛西:黒字化は意識の問題でした。「キャッシュには味がある。おまえはまだわかっていない」と川田さんに言われたことが、今でも頭にこびりついています。そのころから、お金を鉛のような感覚でとらえるようになり、優れたプロダクトづくりだけではなく、稼ぐ努力をしないと稼げないと痛感しました。
川田:Gyazoのアクティブ月間ユーザー1000万人は、北米33%、欧州37%、日本14%、ロシア4%、他12%です。インターネット分布とほぼ同じで、これほど世界中で満遍なく使われている日本発のサービスはほとんどありません。
ポイントはふたつあります。彼らは最初から米国市場、世界市場で勝とうとしているから、競合分析で見ているのはすべて海外サービスです。国内競合の話をせず、地政学が完全に米国なので、カルチャーがずれている。もうひとつは、サービス自体がすごくシンプルで便利。パッと見て、パッと使え、言語やカルチャーの壁を乗り越えやすい。
洛西:我々の売り上げの8割が米ドルです。Gyazoは今では、米国人に動詞化されるほど受け入れられています。グーグルで検索する「ググる」のように、画像・動画を瞬間的に共有することを「gyazod」と。
米国滞在中に花は咲きませんでしたが、現地で学んだグローバル展開の開発・マーケティング手法は血肉になって生きています。日本市場でエッジを立たせることは高校時代に手がけたので、挑戦として満足できません。ユーザー1000万人は、世界市場という意味ではまだまだ小さい。これからが本当の勝負だと思っています。
かわだ・しょうご◎東京都立大学大学院にて博士号を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1999年にディー・エヌ・エーを共同創業。現在は同社顧問、産業技術大学院大学客員教授。また、エンジェル投資家として、日米欧のスタートアップへの投資・支援を行う。主な投資先はウォンテッドリー、スマートニュース、フリークアウト、Viibarなど。
らくさい・いっしゅう◎NOTA Inc. CEO。高校2年の時にスクラップブックソフト「紙copi」を開発、ユーザー登録数は20万件に達した。未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定。2005年に同志社大学卒業。07年に慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了後、同年にシリコンバレーで同社設立。現在は京都に拠点を構える。