近年注目を浴びているのは、今や世界最先端のICT国家として注目される非常にイノベーティブな「電子国家」としての側面だ。さらには国民1人あたりのスタートアップ数は欧州最多にもなっており、Skypeが生まれた国としても有名だ。
これから数回にわたって、エストニアの原動力でもある、未来型の国家運営にフォーカスしていく。電子政府やスタートアップエコシステムの事例を紹介し、なぜこのような制度に踏み切ったのか、そして電子政府の先に見据える未来は一体何なのかを探っていく。
エストニアは北欧のバルト三国の一国である。1991年のソビエト連邦崩壊とともに独立してからまだ30年も経過していない。
面積は日本の九州ほどであり、人口は青森県とほぼ同数の約130万人。人口密度が低いことが特徴的だ。国土の半分以上を森林が占めるなど非常に自然が豊かで、2011年にはWHOが「世界で空気が一番綺麗な都市」と発表しているほどだ。首都タリンの中心部にある城壁で囲まれた美しい街並みは「タリン歴史地区」として世界遺産にも登録されている。
街中を歩いていると中世にタイムスリップしたかのような感覚になり、ここが本当に世界最先端と言われる国なのか、と思うほどである。
首都タリンの世界遺産の街並み
生活はIDカードが1枚あれば完結する
エストニアが世界最先端と言われる所以は「電子政府」である。あらゆる行政サービスのうち、99%がオンラインで完結するため、ほとんど役所に行かなくても済むのだ。
仕組みはこうだ。国民ID制度が導入されており、政府がすべての国民に公開鍵暗号チップ入りのIDカードを発行。15歳以上の国民に保持を義務化付けている。運転免許証、健康保険証、交通機関の定期券、などの機能がオール・インになっていて、このIDカード1枚あれば、行政サービスや生活にまつわるほとんどの手続きが可能だ。銀行の振込や個人所得税の申請のみならず、国政選挙の投票や会社登記までもオンラインで済ますことが出来る。
私がエストニアのスタートアップにジョインしていた頃、ベルリンのオフィスにいた同社のCTOが、タリンオフィスの引っ越しをしたのだが、新オフィスのインターネットや電気の開通などの手続きを全てベルリンからオンラインで済ませていた。「IDカードがさえあればどこにいても手続き出来るよ」と話してくれたのが印象的だった。
エストニアの国民IDカード(サンプル)
企業と行政のあらゆる手続きを電子化しているエストニア政府が目指すところは、「ゼロ・ビューロクラシー」社会だ。2017年には、エストニアの900以上の機関が、1500種類におよぶ電子公共サービス提供している。
また、国家のデジタル化のみならず、サイバーセキュリティ対策やIT教育などの推進も政府が先頭に立っている。2008年にはNATOのサイバーテロ防衛研究拠点が設立された。