今回は、G=Gourmet(グルメ)について(以下、出井伸之氏談)。
私は、グルメではないが食べることが好きだ。
特に好きなのは肉とワイン。肉を食べることで、体力的な回復はもちろん、頭も冴え新しいアイデアが次々と出てくる。そして肉にはワインが欠かせない。実は名誉ソムリエの資格も持っている。ボトルに詰まった作り手の思いや、気候や風土などのストーリーを思い浮かべながら、一緒に食事する人や料理にマッチするワインを選ぶのが楽しい。
私の軽井沢の家にはカーヴ(ワイン貯蔵庫)があり、思い出深いワインが並んでいる。ボトルを開けるごとに、そのときにタイムスリップし、作られた土地や選んだときのストーリーを思い浮かべ、心が満たされる。そのワインとともに家族や仲間と食事をする時間が好きで大切にしている。
マキシム・ド・パリが教えてくれたこと
食事というのは、国によってこんなにも違うのかと体験した機会がある。1966年、銀座ソニービルのオープンと同時に“大人の社交場をつくる“という思いから誕生した「マキシム・ド・パリ」の準備をしていたときのことだ。当時、日本では珍しかった本格的フランス料理を提供することとなったため、ヨーロッパ赴任中の私がパリの本店に出向き、手伝いをさせてもらった。
食事とは、コミュニケーションの場だ。そしてそれは、国によって異なる。日本には日本の、フランスにはフランスのコミュニケーションの仕方がある。私は幸運にもフランスでフランス料理を通してそれを体験することができた。空が闇に包まれる頃、マキシム・パリ本店の扉が開き、人が集い、会話が生まれる。グラスに注がれる香り豊かなワイン、目にも鮮やかな料理の数々が運ばれ、全てが混ざり合いまるで一つの曲が完成していくようだった。
1966年にオープンした「マキシム・ド・パリ」の内観
テーブルでの会話のセンス、所作はもちろん重要だ。当時のソニー副社長、盛田さんは、フランスの食の伝統やホスピタリティを銀座に持ってきたかったのだと思う。食をとりまく二重三重のコトやモノのハーモニーが、人とのコミュニケーションをも生み、絆や関係性が深まっていく。私はそれを、1960年代のヨーロッパで体験することができた。今でも海外に行ったときには、基本的には和食ではなく、その土地の食とワインを楽しんでいる。
食べることが好きな人=コミュニケーション上手
A級・B級・C級、それぞれのグルメ会を持っている。A級は、日本の一流シェフが一週間ずつ交替でカウンターに立つ京都の特別なお店で、私は月に一度こだわりの料理を楽しんでいる。食に四季を感じ、日本という国が繊細で美しいと毎回実感する。カウンター9席で出逢う人たちと話しながらお酒を交わし、食というアートを体感する至福の時間だ。
B級は、故・加藤紘一さんらと、「リーズナブルで美味く楽しいお店で、割り勘で食べよう」と立ち上げて、今も世代を超えて4組のファミリーで定期的に食事をしている。もともとワインと食で繋がっているので仕事の話はほとんどしないが、プライベートな話がいろいろとできて楽しい。
C級は、作曲家の三枝成彰さんらと“ジーンズとTシャツ”で出かける、毎回何が起こるかわからない会だ。最近では蜘蛛やカエルを提供する新宿の裏道にあるお店に行った。海外から来た人が「Oh! Spider!」と驚いていた。これはまた楽しい食のサプライズの会だ。