セイラー教授らは経済学者ケインズのいう「アニマルスピリッツ」を科学的なアプローチで捉え、お金の問題や日常の決断に関する非常に重要な判断基準を私たちに示してくれた。同教授が現代の最も重要な経済学者である理由は、以下に挙げる行動経済学の4つの考え方のためだ。
1. 「ナッジ」は「ナッグ」より重要
米国でベストセラーとなったシカゴ大学法科大学院教授、キャス・サンスティーンとの共著「実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択」(原題: Nudge)の中でセイラー教授は、私たちが金融行動においてより良い結果を得るためにはどうすべきかについて議論している。
教授らによれば、私たちは何かのやり方を変えるよう「ナッグ(しつこく文句を言う)」されたときよりも、「ナッジ(肘で軽く突く)」されたときの方がずっと良い結果を出す。
例えば、退職後に備えて蓄えておく必要があることは、私たちの誰もが分かっていることだ。だが、企業年金制度(401k)の大半は、私たちに貯蓄することを「自発的に選択」し、蓄えに回す金額を設定し、どの投資信託を買うか選ぶことを求める。だが、それではほとんどの人たちにとっては、(要求が)過剰なのだ。そのため、貯蓄が不足する人が大半になる。さらに、米国ではおよそ半数の雇用者が、退職金制度を設けていない。
そこで、セイラー教授とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のシュロモ・ベナルツィ教授は、「セーブ・モア・トゥモロー(Save More Tomorrow、明日はもっと貯めよう)」というプログラムを考案した。一定の金額を401kへの積み立てに回すことを基準とし、貯蓄を増やすよう従業員たちを「ナッジ」するというものだ。
つまり、「貯蓄しない」ならそれを選ばなければならない。この場合、大半の人は貯蓄をするようになる。自動的に貯蓄する401kプランに加入している人は、その他のプランに入っている人の3倍以上、貯蓄をしている。