畏友がいる。霞が関キャリアのトップを退官してほぼ10年、現在は多くの企業の経営を任されている。芸術、芸能に造詣が深く、それも自ら実践している。小唄、ミュージカル、ダンスと芸域は広い。著名ホールの発表会で歌い、都内の大通りのフェスティバルではジルバ、ルンバの軽やかなステップを披露する。いずれも退官後にモノにしたという。
去年の今頃、畏友が言った。「趣味は楽しい。でも気合を入れた勉強に勝るものはない。これから1年で英語をマスターすることにした」。畏友は海外経験がない。天下の秀才だったとはいえ、日本の教科書英語だ。向こう1年で、世界のビジネス界で通用する英語力を、と張り切っているが、それは果たして? というのが私の感想だった。
先日、畏友と会った。“Hi there. What’s up?”ときた。その後も英語で話したいと、小一時間、内外のミュージカル産業について滔々と英語で語った。What made him so? である。
「英語教育ベンチャーのメソッドを活用したのさ。最初に100万円を払うのだが、1年後に少なくともヒアリングは完璧にする、とコミットしてくれた。気に入った映画のスクリプトをシャドウイングで何度も聞くだけさ。この夏、プレースメント試験を受けたら、今すぐにでも海外生活に不自由しないレベルだってさ」
彼は、同ベンチャーの利用者で最高齢かつトップクラスの成績を収めた。私が「20代で留学したけど、1年じゃとてもあなたのレベルには行ってなかった」と感心すると、「聞くだけとはいっても、毎日毎日最低でも3時間、普段は早起きして4時間以上英語の勉強を続けたぜ。一日も欠かさず」。
畏友は、財布の中から一片のコピーを取り出した。「マハトマ・ガンジーの教えだよ」。彼の自筆のコピーと思しき紙片には、こう記されていた。
“Live as if you were to die tomorrow, Learn as if you were to live forever.”