ビジネス

2017.09.28 15:00

人工知能は「ITで敗北した」日本企業のチャンスとなるか

東京大学准教授・松尾豊とアラヤ代表・金井良太

東京大学准教授・松尾豊とアラヤ代表・金井良太

ディープラーニングなどの技術的なブレークスルーにより、AIは企業があらゆる分野のビジネスに適用するようになってきた。企業と学会の連携も進み、AIの未来について考える国際的なコミュニティも続々と設立されている。

スカイプの共同創業者ヤン・タリン、MIT教授マックス・テグマーク、イーロン・マスクらによって設立された「Future of Life Institute」は核、地球温暖化、バイオテックなど人類の脅威にもなりうる問題解決に取り組んでいる。他にもアマゾン、グーグル、IBM、フェイスブック、マイクロソフトなどによって設立された「Partnership on AI」、ジェシカ・リビングストン、イーロン・マスク、ピーター・ティールらが立ち上げた「OpenAI」がある。

今年1月、カリフォルニアに世界中の人工知能に関する重要人物が集結して開かれたアシロマ会議では「アシロマ23原則」というガイドラインが策定された。

しかし、こうした議論に日本やアジアの研究者や企業は大きな遅れを取っているという。アシロマ会議に日本人として唯一出席した東京大学准教授・松尾豊氏と、今秋、AIの世界的プレーヤーを東京に集めたシンポジウム「AI & Society」を企画するベンチャー、アラヤ代表・金井良太氏にAIのグローバルなトレンドと日本企業の現状、これからのビジネスの機会と危機について語り合ってもらった。


金井:私は、アラヤというベンチャーで2年半前から「意識を持った人工知能」の開発をしています。元々人工知能の研究者ではなく、神経科学が専門です。

脳の画像解析に機械学習を使い、病気の予測に使えないか、というところからスタートしたのですが、そこで人工知能ブームが起こった。自分自身が「どうして脳から意識が生まれるのか」に関心があったので、今急速に進んできている人工知能の研究からヒントを得て、汎用AI(人間レベルの人工知能)を作れないか。また、実際自分たちで意識を作ろうとすることで、意識とは何なのか、ということを理解したいと思って活動しています。

一方、昨年10月にNY大学で「Ethics of Artificial Intelligence」というイベントがありました。それをオーガナイズしていたのが意識を研究していた哲学者、デイヴィッド・チャルマーズといった人たちでした。ビデオで見ていると人工知能の話がいつの間にか、意識とは何か、意図を持つとはどういうことか、という話になっていて、そういう議論がとても面白い、と思い始めました。

日本でも研究者や企業の方、国際的に活動している方々とそういう議論を進めながらネットワークを作っていけたら良いなと思い、今年10月10日、11日にケンブリッジ大学のヒュー・プライス教授、東京大学の次世代知能科学研究センターの國吉康夫教授と私の3者の企画で「AI&Society」というシンポジウムを東京で行い、「Future of Life Institute」「Partnership on AI」といった団体からも専門家が来日します。

松尾さんは、日本と海外で活動されていて、グローバルなトレンド、日本の現状をどう見られますか?

松尾:今、日本は非常に厳しい立場に立たされていると思います。私の考えとしては、倫理的問題も重要ですが、先に、まずはITの分野で世界からかなり後れをとっている日本の産業を強くしたい、という課題意識があります。産業が弱いと、すべてのところにしわ寄せがくる。「研究がしたい」という考えの裏返しではありますが。

日本の産業が弱く、ここ20年負け続けているのには、構造的問題があると思います。その構造的問題に色々チャレンジしていくしか方法がない。そこはかなりストラテジックにやっています。

人工知能研究には何度も冬の時代がありましたが、ディープラーニングの技術は「インターネットができた」「トランジスタができた」「電気を発明した」と同じ位のインパクトを持っていて、重要なステージだと考えています。学生たちにもどんどんベンチャーを立ち上げて欲しい、研究室としてもその支援をしています。

金井:大手企業の反応はどうでしょうか?

松尾:ディープラーニングをやったら良いな、という企業は多くあるが、大手企業は構造的問題で動けていません。動けない原因は色々あるのですが、まずITを知る人が少ない。「今、スナップチャットってどうして良いの?」と我々が聞かれても、明確に説明できない。我々にも分からないギリギリのところで世界は戦っているのに、我々が明確に説明できるようになってからでは、明らかに遅い。大企業では60代の人に説明して理解できるようなものでないとプロジェクトとして動けない、となると、到底無理ですよね。

金井:インターネットも、フェイスブックも、出てきた頃は何に価値があるのか分かりませんでしたね。

松尾:ここ20年程、インターネットのイノベーションが大きかったので、「リーン・スタートアップ」や「オープン・イノベーション」などのように割と軽いノリでできる、というのを10年遅れくらいで理解している。

ただ、ディープラーニングって、全然軽くないんですよ。きちんとした技術なので、きちんとやればいいんです。勉強して、マーケットを計算して、投資すれば生きるはずなのに「リーン」でやろうとしたりする。そういうことに対して、一流のメーカーの若い技術者の人たちは気付いていますが、ここ15年くらい負け続けだったので、これを口に出して上に言うのが損だ、という考え方になっている。
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文=岩坪文子 写真=小田駿一

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