経済活動を「知識を蓄積して、流通すること」と整理するヒダルゴから見れば、「人間」とは個人が保持できる知識の量に限りがある存在。一方、組織、都市、国家といった「集団」は、半永久的に存在しながら、知識を蓄え、発展を続ける。
そこで、ヒダルゴが研究しているのが、「集団的学習(Collective Learning)」だ。集団の中で知識を伝達・集積し、学びに変えるこの習慣は、他の生き物と人間を区別するとも言われ、言語の発明から、インターネットの登場まで、人類の知的生産の革命とともに、進歩してきた。
集団的学習をもう一歩前に進めるべく、ヒダルゴが着目したのは「都市」。アルゴリズムを駆使しながら集団的学習を促進するツールの開発に勤しむヒダルゴだが、実は「都市への移民」という自然発生的な動きこそが、人類の集団的学習を最も加速させているという事実が、彼の都市への興味を一層掻き立てたという。
「都市という集団には、集積された資本やネットワークを求めて、外部から才能ある人材が集まってくる。こうした都市の習性は、変わることはなく、都市は今後も拡大の一途をたどるだろう」
ヒダルゴは都会と田舎の区別がなくなり、人口が集中した都市のみで人間が暮らす社会を予想する。もし実現すれば、確かに彼の望む通り、集団的学習はより効率的に進むはず。しかし、問題になるのは、都市の「人口収容量」。アジアには2000万人規模の都市が既に誕生しているが、アメリカにはいまだにない。加えて、交通渋滞、治安、官名汚染など、都市問題も山積。そこで、ヒダルゴは仮想現実(VR)に期待を寄せている。
「シミュレーションされた世界なら、無限に多くの人が集える。これほど素晴らしいことはない」
VR都市は、人類最高の発明であるーそう評される未来は、実はすぐそこまで来ているかもしれない。
セザー・ヒダルゴ◎MITメディアアーツ・サイエンス准教授。専門は、組織、経済での集団的学習についての分析とモデル開発。著書に『情報と秩序:原子から経済までを動かす根本原理を求めて』(早川書房)など。