特に540iのパワー感と走りには双手を上げて褒めようと思うが、ここでは523dに焦点を当てよう。というのは、これが極めて静かだから。本当に驚くべき静粛性なのだ。「でも、ディーゼルでしょう?」と声があがるだろう。「トラックのような振動や、ディーゼル独特のカタカタ音もないのか?」と。しかし、そう、完全にないのだ。
これまでに乗ったディーゼル車の中で、523dはもっともディーゼルらしくないエンジンだ。一層静かさに磨きがかかり、スウェーデンやイギリス、他のドイツの競合車に勝っている。低速でのトルクがかなり太く、操舵性が素晴らしく、今この惑星に存在するクルマの中で、最高のパッケージングと言っていい。では、この記事はここでおしまい? いや、そういうワケじゃない。
確かにこのディーゼルはBMWにとって大きな転機となるが、5シリーズには、数々の電子的なセーフティーネットをはじめ、いくつかクエスチョンマークが付く部分もある。それには後ほど触れることにして、まずはこのディーゼルを賞賛したいと思う。
なんと言ってもこのモデルのハイライトは、2Lターボ・ディーゼルだ。190馬力でトルクは400Nmを発揮しており、シフトショックのない8速オートマチック・トランスミッションを採用している。わずかに踏み込むだけで、グーンと加速するし、ゼロから100km/hまでの加速は6.2秒と十分に速い。低中速での溢れるほどのトルクのおかげで、スタートからの加速性のみならず、高速での合流には、軽くムチを当てる感覚で充分だ。
また、4気筒の2Lのターボ・ディーゼルでありながら、燃費は20km/Lとサイズの割に財布に負担をかけない。
おそらくディーゼルだと実感するのは、エンジンを始動するときと、信号待ちでのアイドリングのときだけだろう。アイドリングの間には非常に微かな、それと分かるかどうかのディーゼル音があるにはあるが、振動はほぼない。しかもタコメーターを2000回転まで上げれば、ディーゼル音も振動も、完全に消えてしまう。急加速するときは、感覚もサウンドもガソリン・エンジンのそれと変わらない。
ステアリングの重さがちょうど良く、ドライバーはフィードバックを充分に得られる。コンフォートモードにセットした場合の乗り心地は、このクラスで最高だ。サスペンションのゆとりがたっぷりだから、路面の凹凸をすっかり吸収してくれる。