ビジネス

2017.08.08

「営業なし」の学習塾が増収増益を続けるワケ

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この塾、やる気ありすぎないか? 私が神奈川県の学習塾「ステップ」を知った第一印象だ。

私は普段、410万件の社員クチコミと評価スコアが集まるVorkersの「働きがい研究所」で、調査レポートの集計と執筆を行っている。Vorkersは、企業や組織に1年以上在籍した社員・元社員による社員クチコミサイトだ。

クチコミには8項目の5段階評価があり、やる気の指標となるのが「社員の士気」の項目。ステップは4.5以上と非常に高く、学習塾では1位である。いまや塾講師から芸能人が生まれる時代。先生たちのやる気スイッチはどこにあるのかを探ってみたいと思う。

講師は授業よりも営業? 塾業界のジレンマ

塾講師の仕事は授業であり、良い授業をする講師が評価される。それが普通だと思っていたが、どうやら業界の定説はそうではないらしい。

競合他社のクチコミを見ると、「講師とマネジメント(営業)の両方をしないといけない」「生徒の成績をあげることを一番に入社したが、実際は入塾率や在籍生徒数のノルマなどがあり純粋に教師としての仕事はなおざりになりがち」といった声が見られ、授業だけでなく営業も業務の多くを占めているようだ。

無論、経営をする上で利益を上げる、そのために学生を獲得するのは塾として当然の行いだが、営業活動によって講師の授業準備時間が削がれているのだとしたら、本末転倒というものだ。

営業無しで本業に専念できる

ステップは神奈川県全域に138校を展開している地域密着型の学習塾で、県内の公立トップ高校へ多数の合格者を出している。同塾の大きな特徴として挙げられるのが、講師はとにかく授業だけに集中できる環境であること。営業をさせず、すべての時間を授業のために使っていることがクチコミからもよくわかる。

「授業準備に専念でき、勤務時間はほぼ授業準備に費やしており、生徒を伸ばす環境、会社が伸びるサイクルがきちんと確保されている(教育、男性)」

「授業が本業。そのための予習をするための時間を作ることを最優先できる。当たり前に聞こえるかもしれないが、なかなか他社ではできないのでは。電話勧誘などの営業活動に追われているライバル会社に授業の質で負ける気がしない。生徒も授業の質を見て塾を選ぶものと思われるし、この会社方針は正しいと思う。各教師が自由に工夫しながら授業できるのもよい(講師、男性)」

「研修体制が整っていること、営業活動をせず授業に集中できることなど、とにかく授業に全力を注げることが魅力的だと考えて入社しました。同業他社の話では『営業しないなんて都市伝説じゃないか?』とのことですが、本当にありません。街に出てチラシを配ったり、ポスティングをしたり、電話をかけたりすることは皆無です(講師、男性)」
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文=恵川理加

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