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2017.08.08

「営業なし」の学習塾が増収増益を続けるワケ

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「授業の質」へのこだわり

多くの学習塾が大学生のアルバイト講師を採用している中、ステップの講師の正社員率は95.8%。入社後には2年間に渡る研修があり、その後も定期的に研修機会があるなど、「授業の質」の向上に力を入れていることが社員の声からも伺える。

「研修がかなりしっかりしており、この業界がはじめてでもスムーズに仕事ができる。研修自体は大変ではあるが、その分、力もかなりつく。ベテラン若手の区別はなく、誰もが新しい気持ちで、毎回の授業に取り組んでいる。だから伸びているのだと思います。生徒の成績が伸びて、志望の学校に合格できたときにはかなりのやりがいを感じることができる(教育、男性)」

「アルバイト教師は雇用せず、正社員のみである。これは、授業品質の維持向上を目的とした人事戦略であり、授業品質で差別化を図ろうというこの企業の経営戦略に合致している。授業力を高めるための社員教育には非常に力を入れており、新人・若手のみならずベテラン層も研修への参加は必須である(教師、男性)」

「研修制度が非常に充実している。2年目までは新人研修として、それ以降も地区別研修があり、先輩からの叱咤激励を受けることができる。年次が上がっても研修には参加するので、腕が鈍ることも少ない(一般社員、女性)」

また、「年功序列の文化が薄く、きわめて実力勝負の企業」「良い授業をする教師=良い教師であり、給料もどんどん上がっていく」という声にあるように、授業の質を高めることが評価につながり、給与にも反映されるようだ。

「(評価は)生徒アンケート等の結果で決定。やればやっただけ生徒がついてくるという良いスパイラルで仕事に大きなやりがいを感じられる。アンケートを読むのは毎回不安になるが、かなりの成長のチャンスを得ることが出来ると思う。企業の仕組みとしてはとても良いと感じる(講師、男性)」

「新卒3年目、25歳、ミドル、年収450~500万円。身分によって給与のランクが異なり、ルーキー→レギュラー→ミドル→シニア→室長→ブロック長という身分体系。ミドルでも順調に続ければ年収500万に達し、同業他社よりもかなり給与は良い。管理職扱いのシニアで年収600万~、室長で700万~、ブロック長になると1000万前後(講師、男性)」

他社のクチコミを見ると「在籍数、講座獲得数などで評価される」など営業実績を講師の評価項目としている学習塾も多いが、ステップでは授業を受ける生徒からの評価や彼らの成績が人事評価に大きく影響している。

講師が授業力を高める→生徒の理解度向上・成績アップにつながる→志望校への合格率がアップする→講師の評価と給与が上がりモチベーションがさらに高まる、という、ある意味「教える」ことの原点に立ち返った好循環が業績を伸ばしている最大の要因なのではないだろうか。そして、合格実績はおのずと入学希望者を引き寄せ、広告宣伝費を引き下げるというわけだ。

「選択と集中」で17年連続増収増益

学習塾・予備校市場は堅調な成長を見せているが、少子化で縮小していく若年層の奪い合いは熾烈だ。各社が映像授業の活用による差別化や社会人向け教育といったマーケット拡大に必死な中、ステップは1クラス20名までの対面式ライブ授業にこだわる。2012年に東証一部上場を果たしているが、校舎拡大は神奈川県内に年間4~5校目安を継続、公立高校への受験と大学受験に絞った堅実な経営姿勢を貫いている。

少人数クラスは、生徒一人ひとりとコミュニケーションを取れるように。ゆるやかな拡大は、着実な人材育成と既存校の質を保持できるように。神奈川県に特化しているのは、神奈川県の高校入試システムに精通できるように。すべてが生徒のため、専門性を高めるための経営戦略だ。

サービスの本質に真摯に向き合い、専門性を徹底的に高めること。情報過多の現代で生き残っていく最大の戦略と言えるだろう。

クチコミから課題を挙げるとすれば、ワークライフバランスだろうか。「有休が取れない」「休みの日も準備に追われる」といった声が多く見られ、経営者への提言として、勤怠管理やプライベートの充実を切望する社員もいる。確かに、上場企業としても、これからの働き方としても、ワークライフバランスの向上は急務だろう。

今まで、先生たちのやる気と熱意に甘えている部分が多かったのだとすれば、そこを改善した後の飛躍が楽しみである。

文=恵川理加

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