端的にいえば「事後保全」から「予防保全」、そして「予知保全」への進化だ。機械の異常やパフォーマンスの低下などのトラブルが発生する前に補修や交換を行うことができれば、メンテナンス業務を圧倒的に効率化できる。
インダストリー4.0と「予知保全」
ドイツ政府が推進するプロジェクト「インダストリー4.0」は、その典型例だろう。「スマート・ファクトリー(考える工場)」をコンセプトに、生産工程のデジタル化、自動化、バーチャル化のレベルを大幅に高めることで、コストの極小化を目指している。
生産計画や在庫状況などの変化に合わせて、工場の生産ラインなどをリアルタイムでコントロールするという取り組みにおいて、機械の故障や異常を事前に予知して保全することは前提だ。
工場のあらゆる場所に設置されたセンサーが機械の異常やパフォーマンスの低下などを感知し、システムがこれに反応して自動的に修理するという。実現すれば人間が関与しなくても機械が製造パフォーマンスを最適化するため、人件費の削減にもつながるだろう。「高コスト国」といわれるドイツが政府主導で取り組んでいる理由がわかる。
「考える工場」において「予知保全」は欠かせない機能というわけだが、日本でもその動きは具体化している。
日本でも実用がはじまる「AI故障予知」
IoTセンサデバイスおよびクラウドサービス開発企業のスカイディスクは、機械学習を活用したAI分析サービス「SkyAI」の提供を開始した。SkyAIは、あらゆるセンサーで収集したデータからAI学習モデルを生成し、正常異常判定や予測などの結果をわかりやすく表示させるもの。
まず既存のデータやセンサーデバイスで収集した時系列データを生データとして用意して、整形プログラム(フーリエ変換やZ変換)によってAI用学習データである整形データに変換する。その後パラメーターのチューニングやデータの見直しを行ってAI実運用モデルを完成させ、そして新しいデータを入力していくことで、正常異常判定や予測などの結果が得られるようになる仕組みだ。SkyAIは電力共有施設などですでに活用されているという。
また、工作機械メーカー大手のオークマは2016年11月、工作機械を動かす数値制御(NC)装置に搭載するAI技術「OSP-AI」を開発。インターネットなどに接続しなくても機械が自立的に自らの異常を予見できるようになる。同社によると、AIを使った工作機械の診断技術は世界初だという。
オークマの技術本部長・家城淳常務は昨年の「JIMTOF2016」で日本物流新聞の取材に対し、「インターネットに接続しなくても誰でも簡単に故障を予知でき、機械のダウンタイムを最小にできる。これまでの知能化技術と同様、熟練技術者がコア業務により集中し、生産性向上を導く環境づくりをサポートできる」と話していた。