「家具=西洋文化」の意識を変える、日本人建築家の挑戦

シリーズ名である「SUKI(数寄)」には、モノやコトへの敬慕を持ち、生まれてくる価値を楽しむという意味が込められている。

ミラノサローネは世界デビューの場。今年、初めてその機会を得たのが、建築家の榊田倫之だ。

彼が現代美術作家の杉本博司と設立した建築設計事務所「新素材研究所」は、かつて使われていた素材や技法を研究し、現代的に再構築して取り入れるというコンセプトを持つが、日本ブランド「インテリアズ」から発表した家具シリーズ「SUKI」にも、同様の意図が込められている。

「当初は日系企業の役員室に置くためのソファセットとして依頼されました。そこで日本人の体形に合った佇まいや、日本独自の空間感覚に合わせたデザインを目指したのです。ソファは脚が特徴で、ある種の重厚感を残しつつも、脚を細くすることで現代的な浮遊感を与えています。テーブルの天板には十和田石を使用しました。私は建築作品と同じように、家具でも素材にこだわりたかった。生産者や職人と直接コミュニケーションをとりながら進めることができたのは、デザイナーとして大きな喜びでした」


(左)直線的なデザインの脚部分は、可能な限り細くデザインすることで浮遊感を演出。その表面にはメッキ仕上げで古美色を表現した。(右)天板には独特の発色を持つ十和田石を使用する。

今回がミラノサローネ初参加ということで、海外からの評価も気になるが、榊田の予想以上に好評を得た。特に十和田石に対して興味を持っている人が多いように見えた。

「日本人デザイナーに対しては、かなり高い注目度がありますね。しかしその一方で、家具=西洋文化という意識が根強いせいか、日本の家具メーカーがイタリアの家具メーカーと同格の評価を得ているようには思えなかった。ですから日本の家具メーカーが国際的に展開するきっかけの一端を、私が担うことができれば嬉しいですね」

わずかな自由時間を利用して、市内各所で行われている展示イベント(フォーリ・サローネ)を積極的に見て歩いたという榊田は、世界中のインテリア関係者がこのタイミングに向けて動いているという“熱量の高さ”に驚きを感じたという。同時に現地でしか味わうことのできない刺激的な体験が、さらに新しいアイデアを生み出すきっかけになるだろう。ミラノは新しい目線を与える場所でもあるのだ。


榊田倫之
◎建築家。1976年、滋賀県生まれ。大学院を卒業後、日本を代表する大手組織設計事務所「日本設計」に入社。2003年に独立して榊田倫之設計事務所を設立。さらに08年には現代美術作家の杉本博司とともに新素材研究所を設立。「MOA Museun of Art」などを手掛ける。さらに京都造形芸術大学の非常勤講師も務める。

edit & text by Tetsuo Shinoda

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