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2017.07.30

「知人100人より親友ひとり」を増やす広告のあり方

kviktor / Shutterstock.com

最新のブランディング手法のひとつとして注目を集める「ブランデッドムービー」。別所哲也、松尾貴史、中尾孝年、西田二郎が、"本当のコアなファン"はどうしたら増えるのかを探ったトークpart1 part.2


別所哲也(以下、別所) :最後にシグマという日本のカメラのレンズメーカーが制作した『blur』 を上映させていただきました。これは15分の長尺モノで、海外を舞台にしていますが、監督含めスタッフはほとんど日本人。また、他の3作品と比べ、よりシネマチックなつくりなのが特徴的です。

まずエンドロールがある。それからモノローグ型といって、主人公が淡々と心の声を一人語りしている。映画監督でいえばガス・ヴァン・サントやジム・ジャームッシュなどが好んでやる手法です。皆さんはどのような感想をもたれましたか。

◆シグマ『blur』


中尾孝年(以下、中尾):これは機能よりはブランドを謳った作品ですよね。だってカメラレンズの機能訴求であれば、ぶれるという意味の“blur”ではなく、“sharp”でしょう。(会場笑)このレンズメーカーにとっては、もちろん機能も大事だけど、写し手の気持ちがちゃんとわかっているブランドであることを伝えたかったのだと思います。

松尾貴史(以下、松尾):他の3作品と顕著に違うのは、カメラレンズそのものが描かれていることですよね。日常的にいろんなものが便利になり、たとえばお湯をかけるだけでいい味噌汁があるなかで、朝、ゴリゴリシャッシャッと鰹節をカンナで削るようなこと。それを人は、ただの郷愁だけではなく、生理的に求めているところがあると思うんです。

昔はカメラを持ち歩いていたけれど、いまはほとんどスマートフォンですべて事足りる。アナログレコードのノイズを含めた音の広がりを楽しんでいたのが、いつの間にかカクカクしたデジタル音でよくなった。便利でシャープで機能的なのは素晴らしいですが、「何から何までそうではなくてもいいのでは?」と問題提起されたような感じがします。

物語としては、父と息子、父と死んだ母、そこにあるさまざまな想いがカメラレンズを通して描かれている。ローバジェットだと思うのですが、感情としてはスペクタルというか、スケールの大きなものを感じました。

西田二郎(以下、西田):僕が思ったのは、製作者の「泣かしたろう」感が薄いなと。自分は感動する気満々だったのに、うまいこと寸止めされたって気がするんです。(会場笑)その手腕が実に見事だった。これこそ15分の尺感、ブランデッドムービーの集大成かなと思うし、意外とテレビと親和性が高いんちゃうかなと。

3分がアカンとかじゃないんですが、3分は一発感動でドンッ!と終わる。でもこの作品は見ていると、心が騒ぐ。見たあとに、いろいろ語れるというかね。そんな長尺のブランデッドムービーとテレビが組むと、すごく可能性が広がると感じました。

別所:テレビだと視聴率、ラジオだと聴衆率、ウェブの世界だと再生回数と離脱率。もっといえばKPI(企業目標の達成度を評価する主要業績評価指標)というのもありますが、当然クライアントは制作費に見合うリターンを考えます。

でも、僕が本作を見たときに感じたのは、シグマが求めているのは視聴回数ではなく、クオリティではないかと。通勤・通学時間で見てもらおうと思っているのではなく、週末にでも15分じっくり見てくれるような人を、購買層・ファン層に考えているのではないかと思ったんです。「このカメラ、持っててよかった」と思わせるような、企業の存在意義に帰着させる作品ではないかと。

中尾:喩えとしてふさわしいかわかりませんが、『知人を100人つくるより、親友がひとりいればいい』という関係性があるとしたら、そういう意味で非常に成功している作品だと思うんですよね。なんでもかんでもカウントする時代だからこそ、そういうカウントには出てこない“本当のコアなファン”をつくるということを、僕ら製作者側も企業側も意識しなければいけない。

松尾:確かに視聴率が低くても語り継がれるドラマってありますからね。

西田:僕はテレビで深夜映画を見るのが好きなんですが、それはレンタルビデオ店に行かなくていいし、事前知識も必要ないから。夜中にパッとテレビをつけて、冒頭を見損ねても最後までついていけて、感動できる。つまり、テレビというのはたまたま見た人間をつかまえていくというメディアであり、同時に、見る気もない人間を最後まで見させるパワーがあるんです。本作のような作品には、それと同じような要素があるのではないか。テレビの良さというのは偶然性なんですよ。
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構成=堀 香織 プロフィール写真=SSFF & ASIA

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