この機運を盛り立てるべく、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)」は、ブランデッドムービーを上映・表彰するイベント「Branded Shorts」を6月に開催。タレントの松尾貴史、電通クリエイティブ・ディレクターの中尾孝年、読売テレビ放送編成局編成企画部長の西田二郎、映画祭代表の別所哲也の4人が登壇するトークイベントも行われた。
イベントでは3つのテーマに沿った計4本の作品が上映され、ブランデッドムービーの現状と今後の可能性について自由闊達に意見が交わされた。
別所哲也(以下、別所):「親と子に残された時間」を明確に表現した上質なドラマ『親子の時計』と、思春期の娘と父親の関係を描いた『世界でいちばん、応援したい人は誰ですか。』を上映させていただきました。感想はいかがですか?
◆アクサ生命保険『親子の時計』
◆野村證券『世界でいちばん、応援したい人は誰ですか。』
西田二郎(以下、西田):最初からええのん、かけすぎちゃいます?(会場笑)どんな内容なのかを紹介してもろてからだったら泣かなかったと思いますが、不意打ちですわ。
松尾貴史(以下、松尾):僕も2本とも泣きました。2本目は、受験を目の前にした娘が父親に「頑張って」といわれるのをうとましく思っているわけですが、その気持ちが時間とともに変化する。わかってはいても、そこで心を掴まれて涙が……(笑)。短い時間で描かれるからこそ、視聴者の涙腺がどこで決壊するか、はっきりわかるのがブランデッドムービーかなと思いました。
中尾孝年(以下、中尾):僕はCMディレクターとして普段は15秒の世界で勝負しているので、3〜4分という長さを羨ましく思います。ブランデッドムービーも広告一般と同様、販促広告なのかブランド広告なのかという大きな分かれ目に差し掛かっていると思うんです。
前者は、商品に優位性があるときは効果的ですが、技術が進歩して他社に追い抜かれることが日常茶飯事なので、果てしない闘いになってしまう。後者はそのような機能合戦とは違い、“企業のファンにさせる・選んでもらえる商品になる”というシンプルな意図のみで描くことができる。その後者を、3〜4分という尺でなら非常に豊かに描けるんだなとあらためて思いました。
別所:ブランデッドムービーという言葉が使われはじめたのはごく最近ですが、その概念のようなものが世界で初めて認知されたのは、2001年の「BMW Films」だといわれています。BMWは、ジョン・ウー、ガイ・リッチー、ウォン・カーウァイなど著名な映画監督8人に作品を依頼し、マドンナ、ミッキー・ロークなどが出演する8本のショートフィルム『The Hire』を制作しました。
制作費とPRに使われた金額はなんと20数億円。当然、出来栄えは映画並みに素晴らしく、01年4月にBMWオンラインで公開されるや、年末までの8カ月間で1400万ページビューを達成し、「21世紀の広告で最高のキャンペーン」とまで謳われています。
このショートフィルムの内容が非常に衝撃的だったんです。自動車メーカーなのに車はぶっ壊すわ、交通違反はするわ、飲酒運転はするわ、デビルは出てくるわ、マドンナは悪態をつくわ(笑)、CMでも見たことがない、ましてや最近の映画のなかでもなかなか起きないことが、ネット上で起きた。しかも企業1社の試みなわけで、世界が驚いた。
そこから機運が高まり、日本でもいろんな企業がウェブムービーをつくるようになり、「CMの続きはウェブで」というのが合言葉になりました。それも最初はスペックや取説的要素が多かったけれど、だんだんと共感を得るためのブランドイズムを表現するようになり、映像作家も参加しはじめて、物語性のあるものをつくりはじめたというのが、これまでのおおまかな流れかなと思います。
松尾:いまなら「ギャングが車に乗って逃げる」という設定をテレビで放送するとしたら、いちいちシートベルトをしなきゃいけないでしょうね。(会場笑)すごく行儀のいいギャング。タバコのエチケットのCMを撮ろうとしても、吸っている人の映像が使えない。そんな時代に、もっと大きなフリーハンドで企業の伝えたいことを演出できるのが、このブランデッドムービーかもしれない。
中尾:ただ、やはり尺が長くなればなるほど見ている人の時間を奪うわけだから、それを受け入れてもらえる高いレベルというのが必要です。「尺が長いから」と企業が伝えたいことを詰め込みすぎると、視聴者にとっては1分が15分くらいの長さに感じてしまい、途中で見るのをやめてしまう。
松尾:いい作品であれば、喫茶店の会計が済んでいるのに「もうちょっと見とこか」と思う。視聴者の生理を考えて制作しなくてはいけないということですね。