LINEのメッセージで、指定した場所、指定した時間に、無人運転の宅配ボックスカーが現れ、停車する。スライドドアを開けると庫内には保管ボックスが並ぶ。スマートフォンに表示されたバーコードをかざすと、「カチッ」とボックスが開き、自分宛の荷物を受け取れる……。
そんな近未来小説のような便利な宅配便が、もうすぐ実現するかもしれない。
2017年4月、ヤマト運輸とディー・エヌ・エー(DeNA)は、神奈川県藤沢市の約12000世帯が暮らすエリアを対象に、配達場所と、配達時間を10分単位で指定できるオンデマンド配送サービス「ロボネコヤマト」の実用実験を開始した。
この開発の背景には、業界全体で顕在化している「再配達の増加」がある。
「ここ5年ほどでインターネット通販が爆発的に普及し、一人暮らしの学生や社会人の方、共働き夫婦など、平日日中にほとんど家にいないような方がヘビーユーザーに変わり、再配達率が急速に高まっている。経営効率を高めるためにも、時間と場所をピンポイントで指定できるオンデマンド配送の実現が最大のテーマ」とヤマト運輸ネットワーク事業開発部長、畠山和生は言う。
ロボネコヤマトは専任のドライバーが運転しているが、自動運転技術が汎用化した際に、無人配達にシフトする想定だ。
無人配達に向けて重要なのは、指定された配達先へ指定した時間に最適な配達経路を自動選択するオペレーティングシステムの開発だ。現在、通常のクロネコヤマト宅急便の配達経路は、個々のセールスドライバーが毎朝、配達先リストを見て、頭で考えて決めている。そこには、「この季節のこの天気のこの曜日のこの時間のこの道は混む」といった経験則、や「○月○日まで工事予定」といった目視情報などが凝縮している。
この知識をデータに置き換え、汎用化する必要がある。DeNAがこのシステム開発を担当する。DeNAロボットロジスティクスグループの田中慎也グループマネージャーは言う。
「まずは、セールスドライバーの方々の“脳”に蓄積されてきたノウハウをヒアリングし、AIに移植するところからスタートしています。そこに今後1年間かけて、実際の配送での運行記録を集め、AIが学習していきます」
定性的なデータに加え、工事やイベント、交通事故などの流動的で複雑なデータをいかに採取して運行に反映させていくかが、今の課題であり、実用実験の大きな目的である。
「今からノウハウを蓄積しておき、自動運転社会が実現した際には、人とAIがパチッと入れ替わるだけというところへ持っていきたい」(田中)