最近は街で見かける数は少なくなったが、日本人にとっては「あって当たり前」な存在だから、誰もおかしいとは思わないかもしれない。でも、僕みたいな外国人から見れば、実に危ないクルマに思える。昔はリヤカーに積んでいたそうだが、今、大量のサツマイモを焼きあげるでっかいバーベキュー釜を積んでいるのは、たいがい軽トラックだ。
つまり、ガソリンタンクのすぐ上で、赤々と薪が燃えているワケだ。そう考えると、とても怖い。
ある寒い夜、家に帰る途中でばったりと焼き芋のトラックに出会ってしまった。軽トラに近づくと、おじさんが薪をくべてる。たった数十秒で釜の火は勢いを増し、その熱が顔に感じられるほど強烈さだ。
クルマの荷台でこんなに強烈な「生の火」を扱うなんて、まるで道を走る爆弾じゃないか!? しかも、煙突までついているからさらに驚きだ! 故郷のオーストラリアだったら、いや、 先進国ならどんな国でも、こんなクルマが路上で営業することは、絶対に許されないだろう。その持ち主もすぐ逮捕される。
思わず「危なくないの?」と焼きイモ屋さんのおじさんに聞いてみた。でかい外国人に話しかけられたおじさんは不思議そうに、こう答えてくれた。
「火を使ってるんだから、そりゃあ危ないのは承知だよ。だから、十分気をつけてる。燃料タンクに熱が伝わらないように、釜の下には断熱材を敷いてるし、走っている時は薪をくべない。もちろん、スピードも出さない」という。
確かに、色々と気をつけていることは、仕事ぶりを見てもわかった。でも、この「爆弾」的軽トラはホントに事故を起こしていないのか? 近所の警察署にリサーチに行くことにした。
窓口で応対してくれた警察官は、ボクの素朴な疑問に驚いて、こう言った。
「い、いやあ……32年間警察官をしているけど、焼きイモ屋の事故ってのは聞いたことないなぁ」
でも、そういう軽トラが走行してて、火がモクモクと燃えている。「生の炎が見えますよ」と僕は言い返した。
警察官は「石焼きイモ屋は街の風景の一部だしねぇ。昔からあるものだから、気にしたこともないなぁ」と言った。
「でも、あれは確かに軽トラックですよねぇ? 何か規制があるんじゃない?」と食い下がったみた。
すると「運転手がシートベルトをしていて、速度制限さえ守っていたら、別に問題はないんだよ」と。どうやら警察の管轄ではないようだ。