地域のイノベーターと言われる人たちの共通点は、地域の課題を解決するために「仕組み」をつくり、そこにヒト・モノ・カネを巻き込むがうまいことにある。そして、課題解決を仕組みに落とし込んでいくと、これまで縛られていた概念から解放されることに気づく。
例えば、「住む」について、従来は「定住」か「移住」という2つの選択肢しかなかった。近年、徳島県にサテライトオフィスを置く東京の企業が増えており、移動コストが下がっていることから、東京と徳島を行き来する暮らし方が生まれている。そこでできた取り組みが、「デュアル・スクール」である。
二重生活は、子どもの学校を考えると難しい。しかし、徳島のある小学校と東京の小学校が提携し、双方の学校を行き来しながら通える制度がある。それに伴い、学習進度を調整する専門アドバイザーという仕事も生まれる。
つまり、東京と地方のどちらに住むかではなく、暮らすという概念が大きく広がっている。さらに、人口とは土地に縛られたものという発想から解放され、「人口そのものをシェアリングする」という考え方ができる。
次に、「学ぶ」という概念を変えたのは、「土佐山アカデミー」である。高知県の旧土佐山村は人口1000人に満たない。2011年、この村の住民から有機農法や自然の中での生き方を教えてもらうというプロジェクトが始まった。学びの場は学校という既成概念をひっくり返し、過疎地そのものを学校に見立てて「アカデミー」と名づけたのだ。
全国から生徒たちが参加費を払って山間の村に集まった。長期滞在型で生徒たちは学習し、交流人口は4年間で6500人に達したという。なかには移住した人たちも複数いる。
学ぶ場を替えただけで、世間に大きなインパクトを与え、高知市の人口減少が進むなかで旧土佐山村の地区は人口が横ばいを続けている。土佐山アカデミーを立ち上げた林篤志は、その後、岩手県遠野市に移り、新たなプロジェクトを始めている。
人口が増えた減ったで一喜一憂し、移住するかどうかで人生の一大決心をしていた時代を軽々とジャンプする。この概念の解体こそ、イノベーションといえるのではないだろうか。