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このように、相続税評価額を圧縮するための方法が徐々に失われる中、有力な対策としては、浸透度は低いですが「事業承継税制」を活用することと、子弟の教育にお金をかけるという選択肢があります。会社の経営を引き継ぐのに必要な知見を得てもらうことを目的に、海外留学などをさせる企業オーナーが増えています。

つまり後継者の質を高めることにお金を使うようになったのです。

しかし、ここでもうひとつ大きな問題が生じます。海外留学などで得た知見を後継者として活かす前に、大手企業に就職してしまうケースが増えているのです。そこで家業よりも大きな規模のビジネスを任され、かつ生活基盤まで築いてしまうと、後継者として実家に戻り、家業を継ぐことが難しくなってしまいます。近年、国内企業同士のM&Aが増えているのは、代々、家族経営を続けてきた会社が、このような理由で後継者難に陥っているからです。海外留学とはいわないまでも、地方の経営者の子どもが東京など大都市圏で学び、そのまま大都市圏で就職し、後継者として戻ってこないというケースが増えているのです。

事業承継のキモは「教育」にある

後継者として、親が経営する会社に入ろうとしても、やはり気になるのは周囲の目です。「自分は古参の社員から歓迎されないのではないか」という懸念を抱いている後継者は少なくありません。

その問題を解決するためには、先代が後継者に、あえて一番厳しい仕事、あるいは誰もが嫌がる仕事をやらせることです。要は、自分の子どもだからといって甘やかしてはいないことを周知させるのです。

後継者が厳しい仕事に黙々と取り組んでいれば、周囲の人たちも手助けするようになります。こうして将来、後継者が正式に社長に就任したとき、彼を支えるスタッフも育っていくのです。

ただし、その際には後継者自身が、なぜ自分がそれをやらなければならないのかを理解する必要があります。ただ、自分の親から命じられるまま、嫌々仕事に取り組んでも、何の効果もありません。同時に、先代がその仕事を命じている理由を、後継者にきちんと理解させる必要があります。

その意味も含めて、事業承継のキモは「教育」にあると考えています。

自分の子どもに、会社の経営を継ぐ後継者であることを自覚させる。加えて、日本はモノ作り大国ですから、やはりモノ作りに興味をもつ経営者を育てていく必要があります。何しろ、いまの日本で製造・加工業を営んでいる中小企業経営者の年齢は、70代から80代が中心です。後継者難のまま、あと数年も経てば、日本の製造業を根底から支えてきたこれらの中小企業が、激減してしまう危険性があります。それは、日本経済にとっても大きなマイナスです。だからこそ本腰を入れて、モノ作り教育に根差した後継者の育成を進めていく必要があるのです。


袖川章治(そでかわ・しょうじ)◎日本ファミリービジネスアドバイザー協会フェロー。三井住友銀行渋谷支店長経験後、同行プライベート・アドバーザリー部担当部長として法人オーナーへの事業承継提案業務に従事。100社以上の事業承継案件に直接関わることにより、具体的な実例に基づいた問題解決能力に定評がある。弁護士、税理士等の専門家と連携しながら、財務戦略、オーナー家相続、資本政策等長期的視点に立ったコンサルティングを得意とする。

文=鈴木雅光、編集=志村 江、写真=桑原克典

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