Athenaはスマートフォンのアプリと連動して位置情報を発信したり、大音量アラームを鳴らしたりできるウェアラブルデバイス。サイズは25セント硬貨より一回り大きいくらいで、クリップやペンダントとして着用できる。
開発したのは、ヤスミン・ムスタファというクウェート出身のパレスチナ人女性だ。2014年、Athenaを作るためにスタートアップ「Roar for Good」を立ち上げるまで、彼女の人生は困難の連続だった。
ムスタファは湾岸戦争中の1990年、家族と防空壕に避難していたところを米国政府に助け出され、ペンシルバニア州フィラデルフィアに送られた。一番下の弟が少し前に同地で生まれ、米国市民権を持っていたことから、運よく家族も救援対象になったのだ。ムスタファは優秀な生徒に成長し、高校ではトップの成績をおさめた。
しかし、大学の入学願書を提出する時になって、重大な問題が発覚する。彼女には社会保障番号がなく、つまり知らずのうちに不法移民として暮らしていたのだ。それから8年間、ムスタファは進学はおろか、運転免許も取れず、飲食店やクリーニング店で時給5ドル以下の仕事を続けた。
「その時の経験が、私を起業に向かわせました」とムスタファは振り返る。「私に他の選択肢がないことを知って無理な要求をする悪徳な雇い主が大勢いました。『いつか、私自身がいい雇い主になる』と決めたのです」
隣人女性がレイプ犯罪の犠牲者に
やがて、母親が地元のコミュニティカレッジに移民ビザがなくても単位が取れるように働きかけたおかげで、ムスタファは6年かけて準学士号を取得し、テンプル大学に転入する。晴れて卒業後、ブログ広告会社「123LinkIt.com」を立ち上げ、2011年に同社を売却。その1ヶ月後、ついに市民権を得たムスタファは、半年間の南米一人旅に出た。
女性の一人旅には危険がつきものだ。宿泊施設やバスの中で、ムスタファは窃盗や性的暴行に遭った女性の話を数多く耳にした。とはいえ、防犯グッズを考案する最大のきっかけとなったのは、帰国直後、フィラデルフィアの隣人女性が自宅前で車を降りた瞬間に連れ去られ、レイプされた事件だった。