ビジネス

2017.01.25 17:00

成功事例から探る、大企業xスタートアップ連携の未来


飲食店向け予約台帳サービスのトレタには15年11月に投資。セールスフォース・ドットコムは、自社のクラウド顧客関係管理サービスとの連携準備を進め、既存顧客への新サービスとして顧客満足につなげる一方で、トレタ側もSalesforceが持つ豊富な顧客へのアクセスはもとより、Salesforceのノウハウを学べることで成長につながる。セールスフォース・ドットコムの投資先はすべてSaaS(必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア)ビジネスのため、投資先各社の課題や改善策に共通項が生じる。そのため、より適切な支援につながるという。

「営業面における実利だけでなく、世界最先端のSaaSビジネスにおける知見をSalesforceから直接学ぶことで、日本で最も先進的なSaaS企業に成長していける手応えを感じている」(トレタ・中村仁社長)

さらにグローバルで利用されるクラウドプラットフォームの強みを生かし、セールスフォース・ドットコムが開催する世界最大のソフトウェアカンファレンスへのブース出展など、スタートアップのグローバル展開につながる機会も提供し、投資先企業の企業価値向上につなげる。勤怠管理・経費精算・工数管理のクラウド一元管理サービスのチームスピリット・荻島浩司社長は「世界中のSaaS提供者がしのぎを削る中で、新しいプロダクトのフィードバックを受けることができ、グローバル展開の有効な一手につながった」と話す。
 
セールスフォース・ドットコムではCVCで直接的に関わり、そこで手応えのあった企業をM&Aにつなげるという“理想的な投資”も行っている。買収後のスタートアップ側の組織運営を見るPMI(経営統合支援)専門部隊も存在し、25名在籍しているという。こうした一連の仕組みがスタートアップ連携を加速させ、企業業績の向上につながる。


“目利き”はスピードの母

CVCによる直接投資だけが大企業の投資手法ではない。VCに投資をするLP(有限責任組合員)出資という方法もある。VCの“目利き”と“ネットワーク”の力を使い、閉鎖的なスタートアップ・コミュニティに入らなければ、得られない情報や接点を一足飛びに獲得するモデルだ。

その手法を使い、うまく“実利”を得たのが、富士通だ。16年7月にクラウド自動化サービスのモビンギと業務提携。自社のクラウドサービスへの統合を進めている。17年前半を目処に戦略的位置づけの高いサービスにスタートアップの技術が搭載される見通しだ。その仲介役を担ったのが、日米クロスボーダーVCのドレイパーネクサスベンチャーズだ。これまで手がけた協業は44件に達するという。コマツと産業用ドローンのSkycatchとの事業連携をはじめ、クラレが新素材開発のVitriflexに直接投資を行った事例など、日本の大企業とシリコンバレーに本拠地を置くスタートアップとの連携の仲介も多い。

「新規事業開発、変革をサポートするのが我々の役目。シリコンバレーのスタートアップをはじめ投資先へのリーチもそのひとつ」(ドレイパーネクサスベンチャーズ・倉林陽マネージングディレクター)。

モビンギと富士通の提携にもドレイパー社が一役買っている。両社の出会いは、富士通のアクセラレータープログラムだが、モビンギのウェイランド・ジャンCEOは当初参加する意思がなかった。しかし、同社に投資をするドレイパー社からの強い勧めがあって参加してからは事業提携に向けてすぐに動き出した。

「アクセラレータープログラムで、担当事業部と出会って3カ月程度という、大企業では通常考えられないスピードで業務提携が進んだ」(富士通マーケティング戦略室・徳永奈緒美シニアディレクター)

こうした経緯をウェイランド・ジャンCEOはこう振り返る。

「すでに別のアクセラレータープログラムに参加したことがあり、当初は興味はなかったのですが、いざ富士通とビジネスデベロップメントをはじめてみると、素晴らしい経験・実績につながった」
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文=土橋克寿、写真=松井康一郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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