日本のスタートアップの資金調達額は2016年上半期で928億円(ジャパンベンチャーリサーチ調査)。年間予想では、調査開始(06年)以降、過去最高額1,658億円(15年)を上回る。米国の3兆6,000億円(16年推計)とは比較にならないが、過去最高額の要因としてあげられるのは、メルカリの約84億円、アストロスケールの約39億円、スマートニュース約38億円、ビズリーチ約37億円といった大型資金調達を行う「大型スタートアップの増加」だ。
従来であれば、早い段階でIPO(新規株式公開)していた企業が、より資金を集め、事業・組織を強化するまで上場を遅らせている背景は、数十億円規模の資金需要に応える「レーターステージ」で投資する事業会社、大型ファンド運営のベンチャーキャピタル(VC)といったプレイヤーの登場がある。さらに、16年設立ファンドを見ると、VCファンド大型化のほか、事業会社のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)、大学系ファンドも増加するなど、「リスクマネー供給元の多様化」という特徴も見られる。
こうした日本の起業家シーンをどう見ているかー。スタンフォード大学特任教授、アジア・米国技術経営研究センター所長のリチャード・ダッシャーに聞いた。
ー現在の日本のスタートアップ・シーンをどのように見ていますか。
リチャード・ダッシャー教授(以下、ダッシャー) : 私は30年以上、日米を行き来しているが、ここ数年、日本のスタートアップ・シーンのエネルギーの高まりを感じる。特にここ2〜3年の進化は顕著だ。その進化の背景には、当たり前だが“エコシステムの環境整備”があると思っている。VCのプレイヤーが増加し、エンジェル投資家も増えたことにより、「シードラウンド(製品を開発、投入する段階)」から「レーターステージ」までの資金調達段階を網羅し、リスクマネーの供給元の層が厚くなった。
そして、起業家を生むためのインキュベーション施設が数多く作られ、大企業やVCによるアクセラレーター・プログラムも活況だと聞く。超大手企業や国立研究所出身者といった、これまで起業を選択しなかった人々の挑戦も垣間見え、起業家の質の高まりを感じる。こうしたエコシステムが整えば整うほど、スタートアップへの注目度が高まり、新しいアプローチを称賛されたり、厳しい批判を受けたりするなかで、ビジネスモデルや起業家自身が、より洗練され、進化していくだろう。今後、さらに“いい循環”が起きていくのではないか。