「近代コース設計の父」による世界一挑戦的な18ホール

ロイヤルポートラッシュ

筆者が師と仰ぐリンクス研究の第一人者・大塚和則氏。定期的に開催している勉強会で「改造も含めて名門はどこか」という弟子の質問に、師は間髪を入れず答えた。「ハリー・コルト作のロイヤル・ポートラッシュ」。かつて、ここでプレイするためだけに小型ボートでアイリッシュ海を渡った筆者が、その魅力をひもとく。

日本のリンクス研究における第一人者の大塚和則先生と、年1、2回、懇親会を含めた楽しい勉強会を開催している。

つい先日も集まって種々教えをいただいたところ、とある日本の名門クラブのコース改造について、ユーモアのセンス抜群の大塚先生が「有名デザイナーを採用して、時間とお金を使ってしょうもないものができてしまった」と嘆いておられた。

それをきっかけに、我々が「改造コース含めて、どこが名門でしょうかね?」と世界中のゴルフコースについてああでもない、こうでもないと盛り上がっていると、先生から「やはり、ハリー・コルト作のロイヤル・ポートラッシュ・ゴルフ・クラブではないか」とビシッと結論いただいた。

元々ハリー・コルト好きの先生だが、この明察に、我々若手も「なるほど、それはさもありなん」と言うことになった。若手といえども、我々はもちろん、全員ロイヤル・ポートラッシュでプレイして、その洗礼を受けている。

ハリー・コルトは、ケンブリッジ大学ゴルフ部出身の弁護士だったが、1901年にサニングデール・ゴルフ・クラブの支配人となったのをきっかけに、数々のゴルフ場の設計を手がけて「近代コース設計の父」と呼ばれるようになった人物である。オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブをつくったアリスター・マッケンジーとも一時組んでいたが、「真面目でクリスチャンのコルトと、酒好きでだらしないマッケンジーとがうまくいくはずはなかった」とは後輩たちの弁である。なんだか身につまされる話だ。コルトについては、後日ゆっくり記述したい。

さて。滞在日数の少ない旅行者が北アイルランドの首府・ベルファストに到着したなら、ロイヤル・カウンティダウン・ゴルフ・コースとロイヤル・ポートラッシュのどちらへ行くか、非常に悩むところである。いずれもアイルランド、いや、世界屈指の名ゴルフコースだ。

私はアイルランドのリンクスはほぼ制覇したが、唯一プレイできていなかったのがこのロイヤル・ポートラッシュだった。

2011年の夏、先輩の加茂太郎さんとスコットランドのマクリハニッシュ・ゴルフ・クラブへ向かっていた私は、どうしてもここでプレイしたくなり、急きょ、途中で進路を変更した。キンタイア半島のキャンベルタウンで一泊し、翌朝キンタイア・エクスプレスという8人乗りのボートで荒れ狂うアイリッシュ海へ。北アイルランドでゴルフをするだけのために、キャンベルタウンから小型ボートで海を渡った日本人はそうは多くはあるまい、とひそかに自負している。
次ページ > 想像を絶する難易度の高さ

text by Yasuro Koizumi

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事