―なるほど、どちらも“組織力”が根底にあるのですね。組織を牽引する英気を養うため、もしくはストレス発散のために、プライベートで心がけていることはありますか?
佐々木:僕のストレス発散法はランニングですね。2年ほど前から、土日は1日10キロ弱走るようにしています。少し遠回りなんですが、きっかけは座禅をしたことで。寺院で簡易的な入門編を受けたら「いいな」と思ったところで「はい、じゃあ今日は終わり」と言われてしまったんです。これはなんだか生ぬるいなと。
自分のペースでできるものを探していたとき、古巣のグーグルで人事を担当している社員が書いたマインドフルネスの本に出会いました。そこに「瞑想は禅に限らず、歩いていても走っていてもできる」という内容が書かれていたんです。なるほど、瞑想だと思ってランニングをするのはおもしろいなと思って走りだしたのが始まりでした。
走っている間は体を動かしている分、思考回路が制限されて、かなり瞑想に近い状態になるんです。何も考えない。タイムも気にしません。心拍数が130以上にならないようにすると、永遠に走れる気さえします。
そんなランニングを続けていたら、感情をコントロールしやすくなりました。イライラする回数が減ったんです! 経営者にとって喜怒哀楽のコントロールは必要不可欠なので、ランニングを始めてよかったと思っています。
枡野:僕は多趣味なので、佐々木さんのように一つのことに熱中するより、常に新しい出会いを求めています。ワインエキスパートの資格をとったり、チームワークを養うためにバレーボールをしたり、現代美術に触れたり、ピアノを弾いたり。ピアノは瞑想に近いかもしれません。脳が記憶しているから、意識しなくても勝手に指が動く。流れながら曲全体を弾いている感じです。
何かにとらわれている状態、自由じゃない状態がすごく苦手なんです。幼少期は変わり者の転校生だったので、いじめられた経験もあり、同調圧力みたいなものに対して一種の嫌悪感があるんでしょうね。
だからこそ、常に脳が開かれている状態を保って、無意識のうちに心理的なバイアスがかからないようにしています。自分で自分の芽を摘んでしまうのが一番もったいないことですから。
―では最後に、今後さらなる飛躍をするための夢や目標を教えてください。
枡野:TOOTを名実ともに世界最高峰のメンズアンダーウェアブランドにすることです。世界中どこへ行っても女性のラグジュアリーな下着はありますが、メンズにはありません。下着は服装の中で一番肌に近く、ある意味一番大事な部分を守るものです。まずはメンズのアンダーウェアにおいて、ラグジュアリーブランドというカテゴリを確立し、国境を越えてTOOTを代表格にすることが僕の夢です。
そのために、今はヨーロッパやアメリカへの進出を短期的な目標に掲げています。ファストファッションを除き、近年日本のファッションブランドは欧米で大きな成果を上げられていません。80年代の日本の元気なブランドのように、ハイセンスな一流品として攻めていきたいと思っています。
佐々木:アジアでの知名度はすでに高まっているんですか?
枡野:かなり認知されています。中国やタイのナイトマーケットで、TOOTの偽造品が販売されているほど。でもそれが安っぽい作りなんですよ。一発で偽物だとばれる商品を作るなら、もっと工夫すればいいのに(笑)。
佐々木:裏を返せば、それほどTOOTが流通しているということですね。僕の夢は、大企業が社会の中心を成している日本を「小さいビジネスをやっているほうが格好いいよね」と言われる世界にすることです。
具体的には、なかなか優秀な人材を雇えない中小企業が簡単に利用できる人工知能を作りたいと思っています。よりよい意思決定には、データが必要です。その集積や分析を担う人工知能をつくり、サポートする。今お客様に提供している会計ソフトを皮切りに、今後も社会に役立つソフトウェアを提供していきたいと考えています。
枡野恵也◎東京大学法学部卒業後、2006 年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2009 年レアジョブの立ち上げ期に参画し、法人事業を立ち上げ 1 年で黒字化達成。2010 年にはライフネット生命保険に転職、東証マザーズ上場や経営戦略全般に携わるかたわら、韓国合弁会社設立など海外事業展開を主導する。2015 年 4 月に株式会社TOOT(トゥート)の代表取締役社長に就任。
佐々木大輔◎一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。派遣留学生として、ストックホルム経済大学にも在籍。大学在学中からインターネットリサーチ会社でリサーチ集計システムや新しいマーケティングリサーチ手法の開発を手がける。卒業後は、博報堂などを経て、2008年、Googleに参画。日本市場のマーケティング戦略立案や日本、アジア・パシフィック地域の中小企業向けマーケティング統括を担当した。2012年、freeeを創業。