―見えないところに遊び心のあるデザインを取り入れるのは、下着ならではの楽しみ方ですね。枡野さんがTOOTに入社される際は、先ほど「感動体験」とおっしゃった通り、感覚的な考え方を重視されたのでしょうか?
枡野:アカデミックな世界では論理が全てだと思いますが、企業は人と人が仕事をする場なので、感覚的な思考とロジカルな思考、どちらが欠けても上手くいかないと思います。僕がTOOTに惚れたきっかけは商品をはいたときの感動でしたが、やはりそのあと論理的に将来性を考えました。その考え方は、マッキンゼーにいた頃から変わっていません。
佐々木:なるほど。でも僕の場合は、どちらかというとロジカルでした。非効率な状態で仕事をせざるを得ない状況にある中小企業を救いたいという思いで始めたので。
とはいえやっぱり感覚的な部分もあって。なんとなく中小企業って、ちょっとどんくさいイメージがありますよね。それを変えたいんです。大企業より、中小企業のほうが楽しく自由に働けている。「小さなビジネスって格好いいよね」「自分でビジネスを始めるっていいな」と言われる世の中にしたいという思いが根底にあります。
枡野:僕も、キャリアを選択するうえで重要なのは論理的な判断だと思っています。サラリーマンを辞めて起業するって、自分からゼロイチのゲームを仕掛けるということですよね。一般的に99%失敗するといわれている「起業」にチャレンジできるのは、冒険家としか言いようがない。
ただ、自分の人生を振り返ってみると、僕の場合はゼロイチよりもイチジュウ、つまり既存のビジネスを拡大することが多かったんです。だから起業に賭けることはせず、自分なりに安全ラインは確保してきたつもりです。
佐々木:僕は起業に成功も失敗もないと思っていて。今まで上手くいかなかった事業に対して、その理由を解き明かすことを自分のミッションにしているんです。物理的に怖いことは嫌いですが、ビジネスの場合失敗したところで死にません。生命の保証がされている範囲内では、知的探求心や冒険心が勝りますね。
―アンダーウェアのTOOTと、会計ソフトのfreee。全く違う分野で革新的な商品を世の中に送り出されているお二人ですが、成功の秘訣は何でしょうか?
佐々木:まだまだゴールにたどり着いていないので難しいですが、大成していることで言えば、組織作りですね。自分たちで徹底的に考えた本質的な課題の解決にこだわる、そんな集団でいることが、freeeの強みだと思っています。
「競合がこういう施策を打っているから、こうしましょう」「お客様の要望に合わせて変えましょう」と言うのは、案外簡単です。だからこそ、お客様の要望や競合のリリース情報を鵜呑みにせず、ゼロベースで本質的な課題解決に取り組む。その共通認識を組織として持つことが、成功の秘訣かと。
枡野:TOOTの場合は、細部にこだわるマインドですね。生地幅のミリ単位の差に至るまで、徹底してTOOTらしさを追求しています。要望を取り入れることもありますが、それよりも「ここまでやり抜いたら間違いなくいいもの」と言える商品をつくり、実験を重ね、遊び心を加えて商品化する。明文化されているわけではありませんが、そのプロセスが社内に浸透しています。
先ほど佐々木さんがおっしゃっていた通り、強い組織には一貫性があります。様々な個性を持った人が集まり、いろいろな考え方をしていても、最終的にお客様に届けたいものが一貫していれば、自然とまとまるんです。それがブランドの持つ良さであり、そこに惚れ込めたからこそ僕はTOOTに飛び込んでいけたと思っています。