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2016.12.04

組織論と発想法から読み解く、伝説のレストラン「エル・ブリ」の秘密[前編]

Photo by Samuel Aranda/Getty Images

ミシュランガイドの三つ星に加え、レストラン・マガジンで世界一に輝くこと5回。2011年に閉店したスペインの名店「エル・ブリ」は、独創的な料理で人々を魅了し続けた。天才シェフ、フェラン・アドリア率いる同店の取材を許された筆者がそこで見た創作の秘密とは?

「創造とは、人のマネをすることではない」。

この信条に共感してから、「エル・ブリ」のシェフ、フェラン・アドリアの関心は“エル・ブリ独自の料理言語”を作りだすことにあった。

そこで2002年、エル・ブリの“進化の系譜”を作成するという目標のもと、スタッフは過去のレシピなどから集めた情報の分析にとりかかった。目的は、完成品の料理を観察し、エル・ブリの料理を他の店とは一線を画すもの、すなわち「エル・ブリをエル・ブリたらしめる要素」を見つけだすことー。

新たな材料やコンセプト、エル・ブリが独自に編み出したテクニックやスタイルの料理もあれば、既存の要素を組み合わせた料理もある。この分析に基づき、エル・ブリらしさのある料理には番号をつけて“オリジナル”として記録に残す。誰かのマネだったとか、オリジナル性があっても料理の進化にたいして貢献していない、と判断されれば、その料理は記録に残さない。

ここで特に重要なのは、エル・ブリのコンセプトを発展させた料理を分類して「創造的な料理カタログ」に入れること。そのカタログが新たなテクニックやコンセプトを実現した方法や、発見につながった道を教えてくれるのだ。

検証作業に参加したスタッフが、ある料理の写真を使ってどのように料理を分析・評価したかを教えてくれた。それは、カクテルかデザートのようにも見える、コースの最初に出される「タパス(オードブル)」だった。写真には、正式な料理名「トマトのソルベーフレッシュオレガノ&アーモンドミルクプディング添え」と「159」という番号が書かれていた(写真参照)。
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[01]1992年に考案された料理番号159「トマトのソルベ―フレッシュオレガノ&アーモンドミルクプディング添え」。
[02]2001年発表「リンゴのムニエル、ジャガイモのピューレとケッパー添え」。見た目の美しさに加え食感も重視している。

「これは、『トマトのフラッペ』という、エル・ブリ初の凍った甘くない料理だよ。これ以降に作ったフラッペに、アスパラガスを使った場合は目録には入れない。でもフラッペではなく、『ソルベで試そう』となった場合は、初めての料理法だから来年度の新作候補に入るんだ」

彼のノートには料理の写真と説明の他に、「スプーンで食べる初めての料理」「このテクニックを甘くない料理に初めて使った」という解説が添えられていた。
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文=マリア・ピラール・オパゾ 翻訳=岡本 冨士子 / パラ・アルタ

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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