イノベーションにおける大企業の仕事が新しいビジネスをつくることだとすれば、スタートアップの役割はニーズをつくることです。そのために必要なのは現状の分析ではなく、10年、15年単位の未来に社会がどうなっているかの予測です。特に、これから最先端を行こうとしているスタートアップの経営者はこの大前提を押さえておく必要があります。
将来起こるであろう変化の波をとらえる際に柱になるのが、「サステナビリティ」「ライフイノベーション」、そして「クラウドコンピューティング」の3つのカテゴリーにおけるトレンドの変化です。今までの社会の前提を覆すようなダイナミックな変化であり、企業がイノベーションを起こす上で、これらのメガトレンドに則っていることは、前提条件であると言えます。
たとえば今までは、お金さえ出せばどんな資源も入るのが当たり前でした。新興国が外貨獲得の手段として身を削ってモノを提供してくれていたからです。
しかし、このような時代は続かないでしょう。2030年にはインドの人口が中国にかわり世界一になります。つまり中国と同じ規模の消費国が地球上にもう一つできるということです。贅沢の底上げが一斉に始まる中、モノが足りなくなるという状態を念頭に置いた、持続可能なモノづくりやビジネスに目を向ける必要があります。
また、現在着々と進んでいるゲノムの解明は、医療やヘルスケア、農業、畜産、漁業、バイオ産業全般を革命的に変えるでしょう。生命のメカニズムそのものへの理解に基づいた革新という意味で、これらの変化をライフイノベーションと名付けています。
たとえば医療分野では、03年にヒトゲノムが解読されて以来、人体の設計図を手に入れたという前提での治療が始まっています。当時、億単位の費用がかかった遺伝子検査が、この十数年のうちにわずか数万円の費用でできるようにまでなりました。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とNCC(国立研究開発法人国立がん研究センター)の研究では、血液一滴から13種類のがんの発症確率が99%の正確度でわかるようにまでなっています。