機械や技術、ITを使うことによって、介護業界の生産性は上がる。高齢化が進む日本において、生産性向上は喫緊の課題のひとつだ。それが結果的に、事務・身体的負担量の軽減による作業効率の向上や、腰を痛めて辞めざるを得ない人などの減少による離職率低下、また、それを受けての従業員や利用者の満足度向上につながる。
さらに、機械を導入することによって生産性が上がるということは、同じコストでより多くのサービスを提供できることであり、それがひいては、スタッフや業界の賃金レベルの上昇にも結びつく。
介護の仕事というのは労働集約と捉えられがちだが、そうではない。工夫や技術を使うことによっていくらでも、知的集約、クリエイティブ集約になれるはずである。
技術を積極的に取り入れ、感性と技術を融合させることで新たな価値の創出とケアの質の向上に努めているオリックス・リビングの森川悦明代表取締役社長はこう指摘する。
「『機械を使う』というと、確かに当初は『人の介護技術は必要ないのか』『人をモノ扱いするな』という反応があった。しかし、濡れている体を手で抱えているのは日本だけ。その方がよっぽど危険だ。実際に、使い始めると介護される方の負担が減ることで、介護を受ける方も元気になり、笑顔も増えている。結果、介護従事者の離職率の低下にもつながった」
もちろん、技術だけが介護ビジネスに必要な要素ではない。本来的な介護の仕事は、自立支援や緩和ケア、看取りの援助のように、人間の専門的な力の総和にある。しかし、介護をする人たちが、その本質的な仕事に十分に力を注げるよう、作業効率を上げるための技術はやはり積極的に取り入れていくべきではないか。
慢性的な人手不足、増加する老人福祉・介護事業者の倒産など、シニアビジネスを取り巻く環境を危機的と指摘する声も少なくない。ただ、世界に例を見ない速度で高齢化が進む日本だからこそ、その文字が示すように、「危」を「機」に変えることもできる。社会課題という宝庫に眠る、好機を見過ごしてはならない。