細胞医療で病気よさらば? 「未来の医療」で社会はどう変わるか

眼疾患の手術をより安全に行うための眼科手術補助剤 photo by PATRICK T. FALLON / BLOOMBERG

20年後には、iPS細胞は市民権を得た治療法になっていることはもちろん、「細胞医療」の時代に入っていると思います。正常な細胞や間葉系幹細胞、iPS細胞などにゲノム編集を加えて、さらに能力の高い細胞を生み出したり、反対に、好ましくない能力が消された細胞を生み出したりして移植する治療が始まっているのです。

例えば、がんの家系の方の場合、遺伝子を治すのではなく、ゲノム編集して免疫能力が加わった細胞を移植することで、がんになるリスクを軽減することができるようになります。最終的に、現在使われている医薬品は使用頻度が減り、医療費も安くなるでしょう。同時に、その頃には、AIもどんどん登場しているはずなので、人は生きるための経済活動が不要になっているかもしれません。

細胞医療により病気から解放され、AIにより労働から解放されて社会が豊かになると、人間は、生きる意味や人類の存在価値といった哲学的なものにフォーカスするようになると思います。その結果、海底や宇宙の探索にチャレンジをする人も現れるでしょうし、新たなイノベーションも生まれるでしょう。人類の次の付加価値を生み出すための知的競争も始まるかもしれません。そんな中で生き残るのは、いつの時代でもそうですが、世界観や思想に囚われることなく、進歩や変化を受け入れられる人たちではないかと思います。

文=鍵本忠尚

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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