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2016.09.08

日本の低成長率の原因は、少子高齢化ではなく「仕事嫌い」?

ハローワークを訪れた求職者

「日本人は仕事熱心」というイメージが強いが、「労働=苦痛」と考える人が増えている。会社が嫌いなら、生産性など上がるはずもないー。筆者が考える経済成長のヒントとは。

今月は2つの質問を通じて、経済について考えていただこうと考えている。

ーあなたはコンビニで150円のペットボトルのお茶を買った。その150円は、レジに収まったあと、どこへ行くのか?

1. コンビニの店員
2. 飲料メーカー
3. ペットボトルのパッケージデザイナー
4. 配送するドライバー

私は明治大学で、起業や起業家精神について学ぶ「ベンチャーファイナンス論」の授業を受け持っている。学生たちに同じ問題を質問したところ、上記の選択肢のように、さまざまな答えが返ってきた。

学生A「コンビニの売り上げになるので、店員の給料になる」

学生B「サントリーやアサヒなど、お茶をつくったメーカーの売り上げになる」

学生C「ペットボトルのパッケージデザイナーにも支払われるはず」

学生D「それだったら、コンビニに商品を運ぶ運送業者の利益にもなるのでは?」

じつは、どれも正解なのだ。この問題の正解は一つではなく、ほとんど無限にある。あなたは、どのような人、あるいは会社をイメージされただろうか?

あなたが支払ったペットボトルの代金はまず、コンビニ店舗の売り上げとなる。すると、お店で働いている人の給料にも反映される。仕入れ元のメーカーの売り上げにもなるが、茶を栽培する農家の利益にもつながっている。容器の原材料は石油なので、石油会社の売り上げにもなる。製品として売り出す際には、パッケージのデザイナーやラベルの印刷業者も必要だ。ペットボトルは、メーカーからお店に輸送するので、輸送業者のドライバーの給料にもかかわってくる。

こうして挙げると、キリがない。あなたがコンビニのレジで特に意識することなく払った「150円」というお金は、これだけの人たちに分配されているのだ。

無数の人々の仕事がつながり、その間でお金が循環しているー。それこそが、「経済」の構造なのである。

このような話は当たり前すぎて、日常の生活ではなかなか意識されない。しかし、経済とはこうしたカネ・モノ・サービスの循環を考えることである。「1本のペットボトルも多くの人たちのバトンリレーの結果、そこにある」と、意識の片隅に置けば、コンビニでペットボトルのお茶を買うときにも、自然と店員に「ありがとう」という言葉が出てくるはず。感謝の言葉は、店員だけではなく、バトンリレーで携わってきた多くの人たちの労働に感謝することでもある。

ビジネスパーソンや投資家として成功している方には、コンビニや居酒屋でモノを買うときに「ありがとう」という気持ちを伝えられる人が多い。そして、フォーブスの読者諸賢にこそ、感謝の言葉を伝えている人が多いと確信している。
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文=藤野英人

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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