ルーはイメルトの強力なバックアップのもと、向こう3年間で10億ドルの予算を獲得し、カリフォルニアにソフトウエアセンターを設立。そして2014年、産業用データを分析するソフトウエア「Predix(プレディックス)」を発表したのだ。
「そこは”グリーン・フィールド”(未開の地)で、脅威となる競合はいませんでした。我々はさらに、新組織GEデジタルを立ち上げ、20年までに50億ドルの売り上げ目標と、世界で500億台の産業機器をネットでつなげるというビジョンを打ち立てました。GEはソフトウエア企業を標ひょう榜ぼうし、世界全体でトップ10に入るという覚悟をもって臨んでいるのです」
クラウドを基盤にした開かれたプラットフォーム、それがプレディックスの最大の特長だ。プレディックスを採用する日本の住宅設備メーカー、LIXILのグループ会社では、毎月1,000件の施工を受注し、50社以上の施工業者が稼働している。
これまでの案件ごとに適切なチームを振り当てるオペレーションは煩雑で、それに関わるスタッフには高度なノウハウが求められていた。そこで、同社は自社仕様のプレディックスを導入。管理職や現場スタッフのノウハウをデータベース化し、それをクラウド上でひも付け、業務効率を改善することができた。
このように、顧客はプレディックスを使ってさまざまなアプリケーションの開発ができる。つまり自由にカスタマイズし、柔軟に”ビジネスモデルを変える”ことができるのだ。
環境変化に合わせ、進化し、かたちを変えていくー。その発想はGEの変遷に重なるのでは?そう問うと、ルーはけむに巻くように笑った。
「イメルトが、なぜ私をGEに呼んだのか。プレディックスは、そんな質問に対する答えになっているのかもしれませんね」
Bill Ruh ビル・ルー◎GE上級副社長兼最高デジタル責任者、GEデジタルCEO(最高経営責任者)。カリフォルニア州立大学大学院修了。シスコシステムズのバイス・プレジデントなどを歴任し、2011年にGE入社。同社のインダストリアル・インターネット戦略を統括する。
GEが開発した”インダストリアル・インターネットの秘密兵器”
GEが開発した「Predix(プレディックス)」はクラウドベースの産業用ソフトウエア・プラットフォームである。産業機器がネットワーク化した「インダストリアル・インターネット」の時代を迎え、GEも自らが手がける発電所などでプレディックスを活用し、すでに生産性向上に成果を上げている。
だがプレディックスは、GEのような重工業企業のためだけのものではない。これからの世界がデータアナリティクスの価値を社会全体で活用できるようにするためには、オープンで水平展開が可能なシステムが不可欠。プレディックスは、そんな発想に基づいて開発された。
日本では、ソフトバンクがGEと戦略的提携を締結し、外販を担っている。住宅設備・建材メーカーのLIXILのグループ会社はソフトバンクを通じてプレディックスを導入。複数の業者が関わる煩雑な工事プロセスを改善させた。そして、そのデータはクラウド上に蓄積され、付加価値となり、さらなる顧客満足の向上につながっている。