この手のくだらない訴訟は、大成功を収めたスタートアップではお決まりのパターンになりつつあり、今回の件もハイパーループ・ワンの成功の証と捉えることもできる。同社経営陣は世界初のハイパーループ実現に向けてトップ人材を雇用し、世界中の投資家から多額の資金を調達するなど着実に事業を推進している。今回のでっちあげとも言える訴訟によって同社の事業が影響を受けることはないだろう。
真空チューブ内のカプセルに人や貨物を乗せ、音速に近い速度で移動させるというハイパーループの概念を考案したのはテスラとスペースXの創業者であるイーロン・マスクだ。ハイパーループ・ワンはマスクのアイデアを実現するために設立され、5月にはロサンゼルスで行われたイベントで初のデモ走行を実施した。
当時、バムブローガンはハイパーループ・ワンのトップエンジニアで、ピシェーバーとロイドと共にプロジェクトの顔として活躍していた。スペースX出身のバムブローガンは、エンジニアチームと経営陣とをつなぐ極めて重要な役割を担っていると周囲から目されていた。
バムブローガンによると、デモ走行の実施からほどなくしてエンジニアチームの中心メンバーと経営陣との間に亀裂が生じたという。バムブローガンは他の10名の社員と懸念を書面にしたため、5月26日に経営陣に提出した。その一部を以下に抜粋する。
エンジニアを見下す経営陣
「ハイパーループ・ワンの経営は、会社の利益を第一に考えて日々尽力しているエンジニアたちが主導するべきであり、経営体制や株主構成にその考えを反映させるべきです。シャーピン・ピシェーバーとジョー・ロンスデールのこれまでの貢献に対し敬意を表しますが、いびつな株主構成によって彼らは過大な影響力を保持し、この素晴らしい会社の成功を阻害する形でその影響力を行使しています。私たちはエンジニアチーム、会社、株主の利益を守るために立ち上がることを決意しました」
その後、6月中旬になって両者の緊張はピークに達した。バムブローガンによると、アフシン・ピシェーバーが報復行為として「輪なわ」を机の上に置いていったという。経営陣はバムブローガンらの訴えを一部受け入れて、エンジニアのジョシュ・ガイゲルを取締役に加えたものの、大きな変革は行われなかった。