「アップルは次世代のトヨタになる」米テック記者が語るiPhone 10年の歩み

アップルのティム・クックCEO (Photo by Michel Porro/Getty Images)


強固なエコシステムの優位性

アップルの成功を語る上で欠かせないのが、ハードとソフトを一体型で提供する戦略だ。競合企業の多くは、ハードとソフトのいずれかに特化しているのに対し、アップルは両者をシームレスに統合することでユーザー体験の隅々まで自社でコントロールし、競合プラットフォームで起きているような問題を回避してきた。

パソコンが主流だった時代には、この戦略は有効ではなかった。何故なら、インテルのチップとマイクロソフトのウィンドウズやオフィスを搭載した方が多くの種類の製品を開発でき、価格も安くできたからだ。ハードとソフトが一体型でないと様々な問題が生じたが、法人顧客にとっては低コストの方が重要だったのだ。

しかし、モバイルファーストの時代になると、複数のデバイスを横断して同じ機能が利用できたり、アップストアで数多くのアプリをダウンロードできるといったアップルならではのユーザー体験が圧倒的な支持を得るようになった。アップルは単に製品を販売するのではなく、エコシステムを提供して初心者でも簡単に新しい機能を導入できるようにしたことで、10年もの長きに渡って市場を独占することができたのだ。

ユーザーはアップルストアで製品を購入し、店員にセットアップをしてもらえば、テクノロジーの詳細について考える必要はない。また、アップルのエコシステムの中であれば快適に様々な機能を利用することができるため、多くのユーザーは敢えてアップル以外の企業から製品やサービスを購入することを望まなかった。

ついに崩壊が始まったアップル帝国

これまで、処理能力やストレージ、帯域幅は数年ごとに大きく進化し、アップルは従来の戦略を維持しながら、技術の進歩に合わせた新たなユーザー体験を提供していればよかった。しかし、ここにきてアップルの戦略にほころびが見え始めている。その原因は皮肉にもアップストアにある。アップルの狙いはユーザー体験を隅々まで管理することだが、多くのユーザーはグーグルなど他社が開発したアプリをダウンロードして使っている。最先端のAIを駆使した地図やボイス・サーチなど、アップルが弱い分野ではその傾向がより顕著になっている。つまり、iPhoneの機能性をアップル自身がコントロールできなくなってきているのだ。

さらには、ムーアの法則が終焉を迎える中、将来的には量子コンピュータやニューロモーフィック(神経形態学的)チップといった全く新しいパラダイムへの移行が進むだろう。そうなるとハードウェアはクラウドにつながるためのゲートウェイに過ぎなくなり、グーグルやIBMなど一握りの企業が市場を独占することになる。
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編集=上田裕資

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