「原子核時計」実現へ一歩前進か、研究が注目集める理由とは

「トリウム229」時計のイメージ (c)Christoph Düllmann


一方、先ごろ発表されたトリウム原子に関する研究は、「原子核時計」によって時計の精度をさらに高めようとするもの。原子時計と光格子時計は電子殻の励起の性質に基づくものだが、原子核時計は核遷移の光学励に基づく。

適切な核種がほとんどないことから、原子核時計は研究が困難だ。有望とみられるトリウム229も、核遷移の検出は難しい。先ごろようやく、トリウム229の 時計遷移が初めて観測されたとの実験結果が発表されたところだ。この実験では、核のエネルギーレベルを下げた状態での励起エネルギーが6.3eV~18.3eV であることが分かった。

理論的には、原子核はその周囲を回る電子によって保護されていることから、外部要因の影響を受けにくい。そのため、光格子時計より100倍近く高い精度を実現できる可能性がある。

原子時計がもたらす新たな世界

当然ながら、これらは現在のところ、理論上の話にすぎない。では、時計の精度を上げることはなぜ、それほど重要なのだろうか? セシウム原子時計でも、私たちの生活には十分すぎるほどの精度が保たれている。

にもかかわらず物理学者たちが精度の向上を目指すのは、以下の分野での知識や技術の向上が期待できるからだ。

1. ナビゲーション

特に注目されている原子時計の用途は、全地球測位システム(GPS)だ。GPSによるナビゲーションは、衛星に搭載された原子時計から送られてくる時刻データに基づいている。受信する側はそれぞれの衛星から送られてくる時刻の違いと光速度を基に、地球上の自身の位置を特定することができる。

GPSの性能に影響を及ぼす要因は、原子時計そのもの以外にもある。だが、時計自体の性能が高まれば有用なことは確かだ。

また、海軍はGPS信号を確認するために水面まで浮上する必要がない潜水艦搭載用のナビゲーション技術に高い関心を持っている。これもまた、より精度の高い原子時計によって実現されるものであり、複数の軍関係機関が原子時計の研究に多額の出資をするのはこのためだ。
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編集 = 木内涼子

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