ハード・シングス(これでもかというほどの困難)を乗り切れる起業家の共通点は何か—。それは、常に前を向いて突き進む「気概」だろう。自分自身を信頼し続けることがリーダーシップへとつながり、ひいては組織を強固にする。その上で、深い落とし穴に嵌まらないよう、より良い意思決定を模索する粘り強さや運も必要となる。
意思決定とは知識や決断力に裏打ちされたものなので、起業家は情報を系統的に扱わなければならない。決断力が求められる局面は突然訪れるため、日々の積み重ねが前提の話となるからだ。その時々に慌てて情報収集に走るようでは、時を逸しているというより他ない。
経営の意思決定においては、“タイミング”こそが大切だ。たとえ、いまこの瞬間に正しい決断ができていようと、それを半年前に行えていた者とでは、明らかな差が生じてしまうからだ。
起業家が常日頃から情報に敏感となり、知識を蓄えているか否かは、決断力に影響する。日常的に社員と話をしているか、市場勢力図を理解しているか、顧客の声を聞いているか、自分の周りにある製品の前提技術・要素技術を理解しているか、並行して絶えず学んでいるか。それらの蓄積がハード・シングスの行方を左右する。
決断力やそれ自体を養うことはより難しい。論理的思考力については鍛錬で身につけられるが、決断力は経験や才能によるところが大きいからだ。私自身も多くの不適切な決断をしてきたが、思い返してみると、問題点はその時その決断の重要性を把握していなかったことに尽きる。つまり、その決断によってどういう結果を引き起こすのかを理解するため、必要十分な時間を費やしていなかったのだ。
例えば、私が共同創業したラウドクラウド社において、成長期にオフィスのスペースが足りなくなったことがある。CFOはオフィスの拡張を提案し、CEOの私は深く考えることもなく承認した。3,000万ドル相当のオフィスを借りたのだが、結果的に身の丈を大きく超えたものだった。十分に利用しないばかりか、半年後には不動産価値が大暴落した。その経験は、私にとって最悪な決断の一つだった。