中国人民銀行(中央銀行)はこの現状を認識し、2015年1月、国内のクレジットサービス会社8社に信用情報の運用に向けた準備を促した。最初に呼応したのはアリババで、同月末に「芝麻信用(Sesame Credit )」を開始した。芝麻信用は、アリババのECサイトTモールとタオバオの取引記録を元に個人や企業の信用力を数値化する。
米国では不可能なビジネスモデルが中国で始動
中国最大のメッセージアプリWeChat(微信)を運営するテンセント(騰訊)も大量の顧客情報を保有している。調査会社Kapronasiaらがミレニアル世代の中国人1,000人を対象に実施した調査では、全員が少なくとも1日に1度WeChatを使用し、大半が1時間に数度も使用していることが判明した。WeChatには消費者の金融取引に関する情報、データも大量にあり、個人や企業の信用力を詳細に分析できるだろう。
このビジネスモデルも、米国ではプライバシーへの懸念からうまくいきそうになく、デジタル信用情報における真のイノベーションは、西欧でなく中国から起こることになりそうだ。膨大なユーザーデータとそれを迅速に分析する技術を持つアリババ、テンセント、バイドゥ(百度)は、中国の信用情報産業を完全にひっくり返す存在になりうる。彼らにとって、政府が規制をかけるのではなく、支援に回っているのも追い風だ。
このデータをどう活用するかはまだ決まっていないし、一部からは「WeChatで5,000人の友達がいることや、Angry Birds(アングリーバード)の達人であることは、財務責任力とは結びつかない」との主張もある。
しかし、中国の信用情報マーケットが変革期にあり、企業のリスクや信用評価方法が大きな転換点の入り口にあるのは間違いない。中国の金融産業における真のイノベーションも、銀行や規制当局でなく、テック企業から始まるようだ。