かつて、ESPNの番組“スポーツ・サイエンス”の制作を手がけるプロダクションのCEOでもあったスターンは、「多くのアスリートは、選手生命はそれほど長くないことを自覚している。でも、自分たちはファン・コミュニティにそれなりの影響力を持っているということも知っている」という。「彼らは社会のために良いことをしたいと思っているが、どうすればいいのかもわからないし、適切なインフラを持っているわけではない」
ファンエンジェルは2015年のマーチ・マッドネス(注:毎年3月に開催されるNCAAバスケットボール・トーナメント)の頃に設立された。当初は、NCAA関連に限定した展開を意図していた。しかし、その後まもなくスターンが参画し、ファンと選手の間の溝に気がついたことから、新しい方向性の模索が始まる。
「最初にファンエンジェルのことを耳にしたときに、ピンと来るものがあったんだ」とスターンは振り返る。「ファンが大好きな選手やチームに、もっと確実な方法でつながったり、影響を与えたりするためにはどうしたらいいか?」と。さらにスターンは「アスリートのいい話を語る」ことにモチベーションを感じたという。クリックベイト(釣り見出し)だらけのインターネットの世界では、メディアがあまり熱心に取り組まないことだ。
ファンエンジェルでファンは、伝統的なチャリティキャンペーンと同様、今すぐに募金することもできるし、タッチダウンを決めたり試合に勝ったら募金をするという方法も可能だ。後者は、アスリートのモチベーションにもなる。スターン流にいえば、この”成果主義クラウドファンディング”にはファンタジースポーツの要素を含んでいるという。というのも、「ファンはこれまでと違うやり方(募金)で選手を応援するようになる」からだ。
ファンエンジェルには、システムやサービス一式が組み込まれており、アスリートが迷うことなく利用できるようになっている。また、アスリートとの提携を考えている企業にとっても、選手を金銭的に支援するだけでなく、そのファンやサポーターと接触できるプラットフォームとなる。
たとえば、NFLのデンヴァー・ブロンコズのラインバッカー、ボン・ミラーは最近、このサイトを使って”Von’s Vision(ボンのビジョン)”というキャンペーンを行い、12,000ドルを集めることに成功した。募金は600人を超える子どもの眼科検診とメガネ作成費用にあてられる。ミラーのスポンサーであるメガネ店のエシロールも同額を拠出。ファンエンジェルは各キャンペーンの募金総額に対して5~9%の手数料を徴収する。
別のキャンペーンを行った元NFLのベテラン、ラダニアン・トムリンソンはフォーブスに、「私のチャリティとファンエンジェルの提携を嬉しく思っています」とコメント。「ファンエンジェルの革新的なプラットフォームのおかげで、1万ドルのクラウドファンディング・キャンペーンをスタートすることができました。募金は教員用のiPad購入費用にあてます。このチャリティはテキサス大学ダラス校のCenter for BrainHealthと共同で行っているもので、認知発達障害の子どもたちに、人生で成功するために必要なスキルや技術を教えるものです」
このキャンペーンについて「トムリンソンは自分の基金と学習センターをもち、ファン・コミュニティに強い影響力を持っているだけでなく、NFLとのコネクション、大学とのつながり、支援者、ソーシャルメディアといったプロモーション基盤も持っています」とスターン。この先12カ月間、SNSやアスリートのウェブサイトを通じて、各キャンペーンのプロモーションに注力していくという。