このところ、高価なこのバッグの購入は賢い投資だという記事をよく目にする。退職後に向けての蓄えや子供たちの大学の学費の足しにする資金を確保するカギは、バーキンにあるのかどうか、専門家の考えを聞いてみた。
私が最近読んだ記事は、高級バッグの売買などを専門とするサイト「バッグハンター」(Baghunter)に掲載された文章を引用したものだ。バーキンと金、S&P 500指数の変動を比較した内容で、バーキンの価値は過去35年の間に500%を超える上昇を記録したと書かれている。
年率にすれば、平均14.2%の上昇だ。一方、S&P 500は年率平均8.65%の上昇で、金は同マイナス1.5%。さらに、相場は変動するが、バーキンの価値は一貫して上がり続けたと主張している。
数字だけをみれば、説得力のある説明だ。だが、女性向けの投資アドバイスを専門とするシーキャピタル(SheCapital)のティナ・パウエルCEOは、覚えておくべきこととして、以下の点を指摘した。株式や金への投資には、「学習曲線」がある一方、バーキンの購入はそれ自体が挑戦であっても、ほかに学ぶことがない。
さらに、エルメスの店に行って、すぐにバッグを持って出てこられると考える人はいない。ドラマの中では、順番待ちリストは5年先まで埋まっていた。バーキンを手に入れることは経験だ。その経験を得るまでのプロセスには、バーキン以外の何かを買って店員にすり寄り、リストの上の方に名前を入れてと頼むことなどが含まれる(ハイクラスないじめとでも呼ぼう)。
さらに、残念ながらそれだけではない。バッグを手に入れたら、他にも考えるべきことがある。保険に加入すれば毎月、保険料を支払う必要がある。クリーニングなどのメンテナンスや、「バーキンにふさわしい」場所に保管するための費用もかかる(IKEAの棚や、杉の板でできたクローゼットではダメだということだ)。
持ち歩けば、傷を付ける可能性もある。それに「3万ドル(約353万円)もするバッグを買ったという事実を肩にかけて触れて回っているようなものだ。地下鉄に乗れば、どうぞ盗んで、と言っているに等しい」という。
一方、フィナンシャル・アドバイザーのエリザベス・シェイデラーは、次の点を指摘する。バーキンは本質的に相場の乱高下とは無縁だが、リスクにさらされているという点ではこれらと同様だ──「流行」というリスクがある。
シェイデラーによれば、「バーキンをつくるための素材はいつでも入手可能だ」。また、「バーキンの需要は人気の上に成り立っている。人気が上がったり下がったりするものだということは、私たちの誰もが知っている」。
バーキンを手放し、現金に変える必要に迫られたときのことを考えてみると、そこにも問題がありそうだ。パウエルは、年金口座や投資口座の一部に適用される税額控除が、バーキンには適用されない点を挙げた。また、買い手を探そうとクレイグスリストなど地域の情報交換サイトに広告を掲載するのも、結局は一流の仲介業者を雇って、手数料を支払うのと同じだという。
パウエルもシェイデラーも同じ考えだ。勝ち抜くのは結局、従来型の投資だ。市場は変動しても、「投資家が長い時間をかけて分散型のポートフォリオを作り、上下する波を乗りこなすことができれば、富を築くことができる」という。さあ、これで答えは出た。