起業家とスタートアップの成長に切っても切り離せないのが、ベンチャー投資家—。日本のベンチャー投資の現状を日本ベンチャーキャピタル協会の仮屋薗聡一会長に聞いた。
日本のベンチャーファイナンスの量は2013年以降、増加し続けている。調査会社・ジャパンベンチャーリサーチ(JVR)によると、15年1〜6月期の未上場企業の資金調達額は前年同期比8.5%増の624億円。6年ぶりに1,000億円を超えた14年の勢いをさらに上回っている。リーマン・ショック以降、先細っていたことを考えるといい兆候だと言えるだろう。
その一方で、米国は15年7〜9月期の未上場企業の資金調達額は前年同期比68%増の190億ドル(約2兆3,000億円)に上り、さらに中国でも15年の未上場企業の資金調達額が1兆円に届く勢いとも言われ、潤沢なリスクマネーの流入が続いている。
日本の絶対額も増加しているが、米国はさらに増加し、日米の絶対額の差はより拡大している。とはいえ、米国や中国以外の先進国、たとえばフランスなどは14年、13年と日本とほぼ同額であり、二極化が顕著だ。
質向上している日本のベンチャーファイナンス
これまで日本のベンチャーキャピタル(VC)シーンを支えてきたのは金融機関系VCだった。リーマン・ショック以降、金融系VCに代わり、独立系VC、事業会社のコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)がマジョリティとなった。
特筆すべきは、これからのVCのなかでは「付加価値型投資家(バリューアッド・インベスター)」が主役になっていることだ。
積極的に経営に関与し、戦略面でのアドバイス、必要な人材の斡旋、提携先や販路開拓などの協力を行い、追加投資(マイルストーン投資)を行う付加価値型投資家が、独立系VC、CVCを中心に、引き続き金融系VC、さらには政府(=産業革新機構)や大学(=国立大VC)も加わり、増加しているのだ。
その結果、日本のベンチャーファイナンスの質は確実に向上している。「日本独自のエコシステム」の創出—という観点から考えると、独立系VCはもちろんだが、大企業のCVCの存在が重要になる。これまでの“様子見”投資から、新規事業創出や、その後のM&A(合併・買収)を意識した投資をはじめ、継続性のある投資機関へと変わってきたことはいい兆しだ。
今後は、独立系と事業系の新興VCを軸に金融系・政府・大学系も一体となって付加価値型ベンチャー投資を増加させることで、「価値創造」を行う。そして、「質」を基盤に「量」を拡大し、エコシステムの拡大を目指していきたい。
現在、日本のイグジット環境は悪くなく、今後もIPOやM&Aは健全に推移するだろう。問題は米国で注目を集めているような時価総額10億ドル(1,200億円)規模の「ユニコーン」を超える、次世代の産業を牽引していくベンチャーを創出できるか、だ。
13年後半以降、数十億円規模の大型ファイナンスが続いたが、こうした企業がグローバルに活躍するメガベンチャーとなれるか。それが今後のベンチャー投資業界のチャレンジになるだろう。
米国では、グーグル、フェイスブックといった大きな成功をしたメガベンチャーがスタートアップに投資をし、その下に生態系ができ、いい循環を生んでいる。エコシステムの“大木の幹”になるような、IPO後も成長を続けるベンチャー企業を輩出することが次のステップとして重要になる。
そのためには、我々も投資先のベンチャー企業の成長はもちろんのこと、スチュワードシップ・コード(機関投資家向けの行動指針)やコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)という資本市場で言われている2つのコード(規範)を意識し、投資先の起業家とともに未上場の段階から、「アカウンタビリティ(説明責任)」について相応の準備をすべきだと考えている。
かりやぞの・そういち◎三和総合研究所を経て、96年にグロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。99年エイパックス・グロービス・パートナーズのパートナー就任、現在に至る。15年7月より、日本ベンチャーキャピタル協会会長を務める。