イノベーションの秘訣:大きく考え、小さく始め、早く学ぶ

Neil Webb / gettyimages

これまで多くのイノベーションを研究してきて分かったことは、成功と失敗を隔てるものは、たった3つの要諦で言い表せてしまうということだ。それは”大きく考え、小さく始め、早く学ぶ”(Think Big, Start Small, Learn Fast)ということである。

大きく考える(Think Big)

”大きく考える”とは、未来のあらゆる可能性を検討するということを意味する。成功者は、既存の前提条件を良しとするのではなく、新しい技術のコンテキストで理解しようとする。新技術がかえって自分たちの首を絞める事になるのではないかといった暗いシナリオも臆せずに検討する。これまでより少しだけ早くて、良くて、安い製品を考えるのではなく、あえて大きな夢を見る。イノベーションの成功者は、白紙状態から、特定の分野や業界のルールを書き換えかねない新製品、すなわち”キラーアプリ”を追求する。

たとえば、Googleが取り組んだ自動運転車は、人の運転を助けようとしたわけではない。運転から人を完全に切り離そうとしたのである。これまでより少しいいクルマを目指したのではなく、完全なオートメーションを目指したのである。というのも、完全なオートメーションが、利用パターンやビジネスモデルの劇的な改善につながりうるからだ。

これに対して、失敗者は小さく考えてしまうことが多い。将来は現在のやや改良版だとの前提に立ってしまう。変化は少しずつ現れるだろうとか、お客様は我が社に定着してくれるだろうと考えてしまうのは人の性なのかも知れないが、こうした考え方はとても危険だ。

たとえば、Microsoft、Motorola、Blackberry、Nokiaといった会社はみな、スマートフォンに乗り遅れた。というのも、スマホはこれらの会社の技術前提にマッチしなかったからであり、スマホ登場後に自社製品がどう変貌していくのかを思い描くことができなかったからなのだ。

小さく始める(Start Small)

イノベーションの成功者は、大きく考えた後で、”小さく始める”。時流に乗った一つの大型商品に賭けるのではなく、アイデアを小分けしてテストを繰り返す。成功者は決して直感で意志決定をしないし、願望に基づいて作成された予算に縛られることもない。重要な決定事項は、本物のデータが得られるまで棚上げしておく。

Googleが自動運転車に対して行った初期投資の額は、自動車会社が新しいフェンダーを開発するのと同程度でしかない。自動車会社がテレビコマーシャルにかける予算よりもうんと少ないのである。

これに対して失敗者は、小さく考えたあげく、やっと動く段になると、大きく始めてしまう。Borders、Blackberry、Kodakなどがその好例だ。

研究によると、破壊的技術に脅かされた企業は、自己満足状態からパニック状態にいきなり振れてしまう傾向があるのだという。自社が危機に瀕していることを認めなかったためにチャンスをいくつも逃した企業が、いよいよその技術の破壊力に気がつき、最後のチャンスに乗ろうとするために、1つのアイデアに大きく賭けてしまい、結局うまくいかないのである。

早く学ぶ(Learn Fast)

“早く学ぶ”企業は、科学的なアプローチでイノベーションに取り組んでいる。そして、デモ版の作成が何千ページもの事業計画書に勝るという姿勢を崩さない。成功者は、製品展開前どころか、パイロットフェーズに入る前にも、カネをかけずにプロトタイプを徹底的に作成する。そこで情報を十分に収集し、成功要因を素早く分析する。成功者は、自社のアイデアの素晴らしさに惚れ込むようなこともない。つねに厳しく自問自答し、学んだことに基づいてプロジェクトを中断したり、変更したりすることに躊躇がない。

ここでもGoogleの例を見てみると、同社では何十台ものクルマで、何千マイルにもおよぶ走行試験を公道で行い、学習を蓄積した。他社は通常、大規模な記者発表会を除けば、試験走行など秘密裏に行うものである。

これに対して失敗者は、小さく考え、大きく始めているから、その後ではもはや学ぶ時間もなければ、学ぶ気もない。

DVDレンタルのBlockbusterが閉鎖に追い込まれたのは、同社が”小さく考え、大きく始め、早く学ばなかった”からである。Netflixが始めた宅配方式でのDVDレンタルモデルを長年にわたり無視しながら、その後いきなり自社版の宅配レンタルを、経済面や運営面を十分に考えることなく大々的にスタートし、結局、延滞料金の支払いを嫌った顧客の流出に対応することができなかったのだ。

読者諸氏も2016年の抱負の実現に向けて、”大きく考え、小さく始め、早く学ぶ”準備ができているか、見直してみてほしい。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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