「研究開発型ものづくり」に挑む日本の星

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「ものづくり」こそ世界に誇る日本の本丸だ。これまで日本では、インターネット系の起業家が主流だったが、サイバーダインやユーグレナなど、大学発・研究開発型ベンチャーが成功を収め、ついに本丸で第2のソニーやホンダを目指す動きが始まった!

研究開発型ベンチャー最前線
ついに動き始めた「リアルテック・エコシステム」

「近年、サイバーダイン、ユーグレナ、ペプチドリームといった時価総額1,000億円を超える大学発・研究開発型ベンチャーが誕生し、この分野での成功事例、いわばロールモデルが生まれたことで、この分野にリスクマネーを提供する民間ベンチャーキャピタル(VC)も増え始めた。一方、政府主導で大学子会社VCの組成も始まり、これまで大きく見積もっても年間30億円程度だったシードステージでの投資は、今後急増するだろう」とビヨンドネクストベンチャーズ社長の伊藤毅は話す。

これまで、この分野の民間VCは、草分け的存在の東京大学エッジキャピタル(UTEC)、京都大学のベンチャーファンド・みやこキャピタルに代表されてきたが、ジャフコ時代にサイバーダイン、スパイバーなど期待値の高い研究開発型ベンチャーに創業初期から投資をしてきた実績を持つ伊藤は、昨年自らVCを設立、今年に入りファンドを組成した。ほかにもユーグレナがSMBC日興證券、リバネスと組んで立ち上げた「次世代先端技術育成ファンド」、西日本シティ銀行と産学連携機構九州による「QBキャピタル」など、新たな民間VC設立の動きが活発化している。

リスクマネー供給の動きが活発化
一方で大学発ベンチャーを増やすという政府の成長戦略を受け、今年国立4大学に合計1,000億円(東京大学417億円、京都大学292億円、大阪大学166億円、東北大学125億円)が出資された。それにより大学子会社VCが続々誕生している。

大阪大学の子会社・大阪大学ベンチャーキャピタルは7月、1号ファンド(大学約100億円、民間約20億円の計約120億円規模)を組成し、本格始動した。投資第1号案件は阪大発の化学品の製造・販売を手がけるマイクロ波化学だ。その他にも、東北大学の子会社・東北大学ベンチャーパートナーズは年度内のファンド組成を目指し、京都大学子会社・京都大学イノベーションキャピタルもファンドを組成中だ。

このように今年は、大学発研究開発型ベンチャーの領域で、官民双方においてVCが増加し、リスクマネーを供給する動きが活発化した。

こうした動きを受けて、スパイバーが今年11月までに約96億円の大型資金調達に成功し、注目を集めた。その他にもクオンタムバイオシステムズ、GLM、メガカリオン、サイフューズ、マイクロ波化学、アクセルスペースなど10億円以上の大型調達を行う企業も増加した。東京大学エッジキャピタル社長・郷治友孝は、次のように語る。「大学発研究開発型スタートアップが取り組む事業分野の多様化が進み、そこに多彩な経歴を持つ起業家も参入、全体として層が厚くなり、投資家サイドから見ても魅力的な分野になってきている」

こうした動きを捉え、「リアルテック領域にもエコシステムを」をかけ声に、積極的に動き始めているのが、前述の「次世代先端技術育成ファンド」だ。今年4月、“次のユーグレナづくり”と称して、研究開発型ベンチャー企業を「ヒト、モノ、資金」で支援する『リアルテック育成プログラム』を創設。ユーグレナインベストメント社長の永田暁彦は次のように話す。「資金の投入はもちろんだが、1部上場したユーグレナがこれまで蓄積してきた経験やノウハウ、知恵をうまく伝えながら、ヒト、モノを含めて成長支援していく。起業家や起業家志望の技術者が門戸を叩きやすい環境をつくり、次の段階へと育てていく」

さらに、リバネスが主催するシードアクセラレーションプログラム「テックプランター」のように、バイオ、ロボティクス、ヘルスケアなどの分野の研究者、起業家向けの起業家育成プログラムも出始めた。

これまで課題だったリスクマネーの供給体制が改善され、起業家育成の仕組みも整い始めたことにより、まさに「リアルテック・エコシステム」の循環が始まろうとしている。次のサイバーダイン、ユーグレナ、ペプチドリームが生まれる日はそう遠くない。

注目の研究開発型ベンチャー15社

クオンタムバイオシステムズ
本蔵俊彦
DNA解析シークエンサーの開発

GLM
小間裕康
電気自動車など環境対応自動車の開発、製造

サイフューズ
口石幸治
医療技術開発用「バイオ3Dプリンター」の開発

アクセルスペース
中村友哉
商業用超小型人工衛星の設計及び製造、運用支援

アストロスケール
岡田光信
宇宙ゴミ回収処理のための人工衛星の開発、生産。

MUJIN
滝野一征・出杏光魯仙
産業用知能ロボットの開発、販売

Digital Grid
陶山茂樹
ICTを利用した次世代送電網デジタルグリッドの開発

カブク
稲田雅彦
3Dプリント等のデジタル製造技術プラットフォーム。

WHILL
杉江 理
全方位タイヤを用いた次世代電動車いすの製造、販売

リバーフィールド
原口大輔
内視鏡手術支援ロボット「EMARO」の製造、販売

キュア・アップ
佐竹晃太
ニコチン依存症向けの治療アプリなどの開発

MOLCURE
小川 隆
抗体医薬の創薬事業などのライフサイエンス事業

Exiii
近藤玄大
スマ―トフォンと接続可能な筋電義手の開発、製造

メタジェン
福田真嗣
腸内環境解析サービスなどのバイオサイエンス事業

未来機械
三宅 徹
ソーラーパネル清掃ロボットなどの製造、開発

文=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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