昨今、「生産性」という言葉を聞いて身をすくめる人は少なくない。職場でその言葉を口にすると、スプレッドシートやダッシュボード、そして「また少ないリソースでより多くをこなせと言われるのではないか」という忍び寄る疑念が頭をよぎる。
一般的に「生産性」とは、同じリソースからより多くの成果を得るという明確な経済的概念を表す言葉として使われてきた。工場の現場であれば、それは一目瞭然だ。製造ラインから出荷される自動車の数が増える。あるいは、より少ない時間で同数の製品を生産する。
やがて、この指標は産業という首輪を抜け出した。測定対象を探すうちにたどり着いたのが、他人が見落とすものを見抜くことに価値を持つ人々だった。ありきたりな答えを拒むエンジニア。問いそのものに欠陥があると気づくストラテジスト。彼らの仕事の価値を、ダッシュボードに収めることなどできるだろうか。
知的労働において、投じた労力が価値に直結することはめったにない。1時間かけて何の成果も得られないこともあれば、わずか10分が会社の方向性を変えることもある。画期的なアイデアは、壁をじっと見つめているときに浮かぶかもしれない。しかし、従来の生産性指標がそうした瞬間を捉えることは皆無に等しい。企業は仕事が行われた「後」の測定に多大なエネルギーを費やす一方で、何がそれを可能にしているのか、あるいは標準的な業務慣行の何が障害になっているのかを問うことには、ほとんど時間を割いていない。
逆効果をもたらす職場環境
多くの企業が、高度な訓練を受けたナレッジワーカーの採用と定着に多大な時間と資金を投じている。しかし、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる環境かどうかにはほとんど配慮せず、そうした職場に配置している。ギャラップの「グローバル・ワークプレイス意識調査 2026年版」の報告書によると、従業員のエンゲージメント低下による生産性損失は、世界経済におよそ10兆ドル(約1580兆円)(世界のGDPの9%に相当)の打撃を与えていると試算されている。
この数値をオフィスデザインのみのせいにするわけにはいかないが、職場環境が重要であることを示す証拠はある。ゲンスラーの「グローバル・ワークプレイス調査比較 2023年版」では、ハイパフォーマンスな職場に勤務する従業員の94%が、オフィスでの勤務が個人の生産性にプラスの影響を与えたと回答した。一方で、パフォーマンスの低い職場では、その割合は45%にすぎなかった。高給で高度な訓練を受けた人材が最も価値のある仕事をする環境への投資を削り、それがパフォーマンスに与える影響に無関心でいることは、非常に奇妙な経済合理性と言わざるを得ない。
時間節約のワナ
1930年、ジョン・メイナード・ケインズは、生産性の向上によって労働時間が「1日3時間、あるいは週15時間」に短縮される未来を思い描いた。それから約1世紀が経過した現在も、週15時間労働は実現していない。生産性は私たちに時間をもたらすはずだった。では、取り戻したはずの時間は一体どこへ消えたのだろうか。
私たちは今、同じ実験をより速いスピードで繰り返しているのではないだろうか。生成AIは2時間の会議を90秒で要約し、1週間分の分析を午後の時間に圧縮できる。スタンフォード大学とMITの経済学者がフォーチュン500企業のカスタマーサポート担当者5000人以上を対象に行った調査によると、AIのサポートによって初心者やスキルの低い労働者の1時間あたりの問題解決率は30%向上したという。
1世紀前であれば、そうした効率化の恩恵によって午後の時間が手に戻っていただろう。しかし、その午後を実際に手にする人はほとんどいない。浮いた90分は、すぐに別の仕事の90分で埋め尽くされる。私たちはトレッドミルに、より速いモーターを取り付け、それを「進歩」と呼んでいるにすぎない。
枠にとらわれない「創造的生産性」とは
誰にでも、前の週より多くのことをこなせたと感じる日があるはずだ。ToDoリストをすべて消化し、胸を張って笑顔で帰宅し、プライベートを楽しむためのエネルギーも存分に残っているような日だ。
筆者は職場デザインの会社を共同設立した立場にあり、生産性がどのように測定されるかにビジネス上の関心を抱いている。自社事業を通じて、筆者らは仕事を単なるタスクの集合体として捉えるのをやめ、一連の行動パターンとして捉えるようになった。人々が1日をどのように過ごし、どこで注意力が削がれ、成果の上がる1時間とは当事者にとってどのような感覚なのか。そこで学んだのは、優れた仕事とは成果物の蓄積を監視することではなく、それを生み出している人物そのものを観察することで見えてくるということだ。
具体的には、ダッシュボードには捉えられないシグナルに気づくことだ。問題が紛糾した際、同僚たちが誰を頼るかに着目するとよい。その人物は、プロジェクトを前進させるための「見えない貢献」を果たしている可能性が高い。発言時間の長さではなく、問いの質に目を向けることだ。また、人々が思考するためにどこへ向かうかにも注意を払うべきだ。静かな2時間を確保するために午前7時に出社するエンジニアや、1人になるためだけに会議室を予約するアナリストは、現在の職場環境において「何が困難か」を無言で伝えている。
そして、従業員のエネルギーにも注目することだ。ハードな1週間を終えてもなお集中力を残している人は、良い働き方をしている。一方で、すべての締め切りを守っていても疲弊しきっている人は、未来のエネルギーを前借りしているにすぎない。
結論
一日の終わりに感じる疲労には2種類ある。1つは、8時間ひたすら仕事と格闘したことによる疲労だ。もう1つは、仕事に完全に没頭し、達成感を得て、帰宅してもなお気力が残っている状態だ。後者こそが、まさに「生産的」と呼ぶにふさわしい。
私たちは、そうした「創造的生産性」のための余白を作り出す必要がある。思考し、タスクリストになかった課題を解決し、仕事が終わった後もエネルギーを残せるような環境だ。まずは以下の3つのステップから始めてほしい。
1. 観察対象を変える。月に1回、チームのメンバー全員に、その週で最高だった1時間と最悪だった1時間について尋ねてみる。何をしていて、どこにいて、何が支援になり、何が妨げとなったのか。そのパターンから見えてくるものは、どのような稼働状況レポートよりもパフォーマンスに関する多くの示唆を与えてくれる。
2. 従業員の実際の業務内容に合わせて環境を点検する。平日の午後にオフィスを見回り、集中した作業が阻害されているシグナルを探す。オープンデスクでのヘッドホン着用、階段での電話、1人での会議室の利用などだ。そのうえで、どのような環境であれば集中できるかを従業員に尋ね、その回答をデータとして活用する。
3. ツールによって時間を削減する前に、浮いた時間の使い道を決定する。AIや新たなプロセスによって時間が生まれたら、その時間の活用目的を明確に定め、カレンダー上で確保する。ツールがタスクを代行するたびに、既存の会議やレポートを1つ廃止し、効率化による成果が仕事の負荷を増やすのではなく、軽減につながるようにする。
本来、生産性は私たちに時間をもたらすはずのものだった。それがついに実現されるよう取り組むことこそが、リーダーたる私たちの責務だ。



