次に、取引量に目を向けてみよう。イラン情勢の悪化に伴い、世界の石油の約5分の1が通過していたホルムズ海峡が事実上封鎖された。国際エネルギー機関(IEA)によれば、これにより、国際市場からは数十億バレルもの石油が失われた。
その後、ペルシャ湾岸諸国産の原油はパイプラインや洋上での積み替えといった手段を通じて、ホルムズ海峡を回避しながら輸送されるようになった。一方、石油製品についてはそのような代替輸送手段は確立されていない。ホルムズ海峡を経由する燃料の輸送量はイラン紛争開始前の水準を大きく下回っており、湾岸諸国の軽油の輸出量は通常の約4分の1にとどまっている。
ロシアも同様に影響を受けているが、縮小の規模は湾岸諸国より小さい。ロシアの軽油輸出は過去2年で最低の水準に落ち込んでいる。イラン紛争開始前、湾岸諸国とロシアは海上取引される軽油の約45%を供給していた。うち、供給が途絶えた軽油の大部分は湾岸諸国産だ。
米国はロシア産の燃料を一切輸入しておらず、2021年以降は石油の輸入量より輸出量の方が多い状態が続いていた。輸入の大部分はカナダ産だ。精製能力が乏しい米北東部は、南部のメキシコ湾岸地域や外国から輸入した燃料に依存している。
これらはいずれも、給油所での価格を抑制する役には立たない。なぜなら軽油は国際市場で取引されているからだ。欧州やアジアが高値で買い求めれば、米国の精油所は海外へ出荷するようになる。実際、米国の軽油輸出量は今年、過去最高を記録している。こうした背景から、米政府は軽油の輸出禁止を検討したが、エネルギー長官や内務長官が反対の姿勢を示している。米調査会社S&Pグローバル・エナジーは、輸出を禁止すれば、製油所は生産縮小を余儀なくされ、結果的にガソリン価格を押し上げることになると警告している。
先月結ばれたロシアとの合意も、状況を大きく変えるものではない。最初の供給量は、米国の軽油需要の半日分程度に過ぎないからだ。
軽油価格はいつ下がるのか
公平を期すために言えば、ウクライナ軍の作戦は確かに効果を発揮している。IEAによると、ウクライナ軍の無人機は数日おきにロシアの製油所を攻撃し、同国の石油精製能力を過去20年で最低水準に低下させ、世界的な軽油の供給不足を深刻化させている。このように、ウクライナ軍の無人機攻撃も燃料の供給不足に拍車をかけているが、主な原因ではない。
最も強力な反論はトランプ大統領自身から出ている。7月8日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、ゼレンスキー大統領の隣に立ったトランプ大統領は、ウクライナ軍によるロシアの製油所への攻撃が戦闘の終結につながる可能性があると述べた。同大統領は過去数カ月にわたり、燃料価格高騰の原因はウクライナではなくイランにあるとしてきた。9月には、米南部テキサス州ダラスで開催された共和党中間選挙大会で、同大統領はイランとの紛争に勝利すれば、原油価格は直ちに下がると明言した。


