世界で最も熱を帯びた投資ブームが、アジアの成長モデルそのものになったらどうなるか。
その答えをすでに出しつつあるのが韓国だ。韓国は人工知能(AI)を軸に国家戦略を再編しており、その動きは主要12経済国のなかで最も速い。だが李在明(イ・ジェミョン)大統領の政権は近いうちに、もっと難しい問いに向き合わざるを得なくなるかもしれない。AIブームが突然崩壊した場合、2兆2500億ドル(約355兆円)規模の経済はどうなるのか、という問いだ。
その答えを韓国が身をもって知る羽目にならないことを願うばかりだ。サムスン電子からグーグルの親会社アルファベットまで、警告のサインは増えているものの、AI関連株の足元の動揺はむしろ買い場という可能性も十分ある。AIインフラの増強に投じられる莫大な資金は、数世代で最も破壊的(ディスラプティブ)な技術に向けて引き続き流れ続けるのかもしれない。
とはいえ、韓国の場合、たんにAIブームに乗るだけの段階は過ぎた可能性がある。だんだんと、このブーム自体のほうが韓国経済を振り回すようになってきている。韓国にとって、AIは「大きすぎてつぶせない」ものになりつつあるのだ。
これは大げさな表現ではない。韓国の中央銀行である韓国銀行がどう言っているかも考え合わせてみよう。ちなみに韓国銀行は、世界でも最も堅実な部類に入る金融当局と言っていい。韓銀の研究チームは早くも7月時点で、「半導体版オランダ病」に警鐘を鳴らしていた。オランダ病とは、ある産業の急成長がほかの産業を衰退させてしまう現象をいう。
歴史を振り返れば、アジアからアフリカ、中南米まで、自分たちの指導者は石油や金(ゴールド)、ダイヤモンドといった「地下の宝」をなんで見つけてくれたのかと嘆く人々の姿であふれている。1年前であれば、こうした「資源の呪い」のハイテク版、つまり、政府高官とAI企業幹部でつくる少数のサークルが意思決定をし、利益を独占する事態が起こり得るなどと警告すれば、一笑に付されていただろう。いまはそうではない。
幸か不幸か、韓国経済は今年1月に「当たりくじ」を引いた。それまで、AIはまだどこか未来主義的で抽象的なものだった。アジア諸国は長年、ソフトバンクグループ創業者の孫正義が、AIが人間の知能を超える瞬間である「シンギュラリティー(技術的特異点)」について説くのを聞いてきた。しかし、それは経済の現実というより、アーサー・C・クラークやアイザック・アシモフが描いたSFの世界のように思われていた。



