東京都文京区の東京大学本郷キャンパスで10月29日、韓国統一省が主催する国際朝鮮半島フォーラムが開かれた。出席者は、石破茂前首相、李赫駐日韓国大使らそうそうたる顔ぶれだった。ここで、プログラムに名を連ねていながら、当日姿が見えなかった大物が一人いた。韓国の鄭東泳統一相だ。
韓国の統一省は南北分断国家ならではの組織だ。日本には統一省に直接相当する政府機関はない。それでも、統一省は日本や米国など、統一政策を進めるうえで協力が必要な国に職員を外交官として派遣している。鄭氏も訪日に意欲的で9月末ごろから、調整を続けてきたという。
なぜ、来日が実現しなかったのか。複数の関係筋の証言によれば、日本の政府高官との面談が実現しなかったからだという。関係筋の一人によれば、高市早苗首相、茂木敏充外相、木原稔官房長官のうち、少なくとも1人との面会を要請していた。ただ、日本側からは、国会対応などで多忙であることを理由に丁重なお断りがあったという。
しかし、1カ月もの調整期間があっても実現できないというのは、信じがたいところだ。別の関係筋は「どうも、最近の米韓関係の混乱が影響したらしい」と語る。「鄭東泳氏は米韓関係の火種の一つだ。その鄭東泳氏を迎え入れると、日米関係に悪影響が出るかもしれないという判断が日本側で働いたようだ」(同)。
鄭東泳氏は最近、米韓関係の「お騒がせ人物」としてその名をはせている。今年3月6日の国会答弁では、北朝鮮のウラン濃縮施設の所在地として亀城を挙げた。米国側は、米韓間で共有した機密情報が公開されたとして不満を示し、対北朝鮮情報の共有を一部制限したと報じられた。一方、鄭氏や統一省は、公開資料に基づく発言だったと反論している。鄭氏はその後も北朝鮮に融和的な発言を連発。朝鮮半島の戦時作戦統制権の移管や米国への韓国投資を巡るごたごたも影響し、米韓関係は微妙な状況に陥っている。
韓国の進歩(革新)勢力の中にも「鄭東泳氏はやり過ぎ」という懸念の声も出ているが、鄭氏はまったく意に介しないようだ。鄭氏は2007年大統領選で進歩勢力を代表する候補者だった。李在明大統領は、「政治の師」を自任する鄭氏を静かにさせられないでいるという。
一方、日本側はどうして鄭氏を受け入れなかったのか。確かに、米国政府関係者の間で鄭氏の評判は良くない。しかし、統一省は予算も人員も少ない小さな役所だ。発言力も強くないし、日本に統一省に相当する官庁がない以上、懸案事項を抱えているわけでもないし、面会は単なる表敬訪問にならざるをえない。高市首相が李在明韓国大統領と良好な関係を築いているのであれば、鄭氏とも短時間会うだけ会って、原則論を唱えるという方法がないわけではなかっただろう。
トランプ大統領はバイデン前大統領が進めてきた日米韓協力に全く関心を示していない。実際、第2次政権の発足以降、日米韓首脳会談が一度も開かれていない。トランプ政権が迷走しているなか、日韓関係を強化するため、韓国の顔を立ててやってもよかったのではないかと思うのは、私だけだろうか。



