2020年、ジョシュ・キャンフィールドの営業職としての仕事は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で中断された。当時、妻は妊娠中で、大学院に通い始めるところだった。
収入を得る必要があった彼は、営業職に戻れるまでのつなぎとして芝刈りを始めた。
それから6年後、彼の会社Pinstripe Lawn Care & Landscapingは、年間約600万ドル(約9億4400万円)を売り上げる企業へと成長した。
そしてジョシュの物語は、米国で起きているはるかに大きな潮流の一部である。
誰もがAIやテクノロジー系スタートアップについて語る一方で、もう1つ大きな注目を集めている業界がある。熟練技能職と、日常生活を支えるサービスビジネスである。
米国を代表する大企業の一部も、そこに賭けている。
なぜ今、技能職に関心が集まっているのか
AIブームについて興味深い点がある。次々と建設されているデータセンターはすべて、電気工、HVAC技術者、建設作業員、配管工を必要としているのだ。
Metaによると、同社のデータセンタープロジェクトは2010年以降、3万人超の熟練技能職の雇用を支えてきた。
また、Lowe's Foundationは、2035年までに25万人の技能職人材の訓練を支援するため、2億5000万ドル(約393億円)の拠出を約束している。
一方、若い米国人もこの動きに注目している。
National Student Clearinghouseによれば、職業教育に重点を置くコミュニティカレッジの入学者数は2020年から2025年にかけて約20%増加した。
この業界が創業者にとって興味深い理由は、ほかにもある。
こうした事業の多くは、テクノロジーがどう変化しようとも人々が必要とするサービスを提供している。
エアコンは故障し、配管からは水が漏れ、商業ビルには保守管理が必要だ。
そして、誰かがそのサービスを提供しなければならない。
新しいものを発明する必要はない
ジョシュは革新的なビジネスアイデアを思いついたわけではない。生活費を払うために芝刈りを始めたのだ。
だが彼は、1件ずつ芝を刈るだけではない、より大きな機会があることに気づいた。
1つの関係から複数の契約を獲得できる商業不動産の管理会社に軸足を移した。
継続的なメンテナンス業務を事業に組み込んだ。
さらに、顧客が完了した作業を追跡し、写真を確認し、追加サービスを依頼できるアプリも開発した。
こうして彼は、ありふれたサービスを数百万ドル規模の企業へと変えた。
創業者がこの市場に参入する方法はいくつもある。
ゼロからの創業か、既存事業の買収か
1つ目の選択肢は、ジョシュのように小さく始めることだ。
清掃会社、窓清掃、造園サービス、塗装業、あるいは別の地域密着型サービスを立ち上げることができる。必ずしも自分自身が永遠にすべての仕事をこなす必要はない。顧客を見つけ、有資格の作業員を雇い、業務を管理する会社をつくることができる。
2つ目の選択肢は、既存事業を買収することだ。
ベビーブーマー世代の事業オーナー数千人が引退期に差しかかっており、その多くが事業を引き継ぐ人材を必要としている。
McKinseyの2026年の分析では、2035年までに約600万社の中小企業が事業承継に直面すると推計されている。
そして、ビジネススクールの卒業生はすでにこの機会を追求している。
それには名称さえある。「買収を通じた起業(entrepreneurship through acquisition)」だ。
引退するオーナーから配管会社を買収し、その後、マーケティング、顧客フォロー、スケジュール管理、業務運営を改善する場面を想像してみてほしい。
もちろん、事業買収には負債、人員問題、高値づかみの可能性などのリスクが伴う。
だが、実証されていないアイデアから始めるわけではない。
創業者はどこに機会を見いだせるのか
安定した需要、リピート顧客、そして自分が解決方法を知っている業務上の問題を抱えた事業を探すことだ。
見込み客へのフォローをしていない造園会社かもしれない。継続契約のない清掃会社かもしれない。あるいは、いまだに紙で予約管理をしているHVAC会社かもしれない。
そうした問題は、ビジネス機会になり得る。
ジョシュは家族を支える必要から、芝刈り機1台で始めた。現在、彼の会社は4州にまたがり、何十もの家族を支えている。
より大きな教訓は、経済の向かう先から恩恵を受けるために、次のAI企業を生み出す必要はないということだ。
何十年も続いてきた既存のビジネスを引き継ぎ、それをよりスマートに運営する方法を見出すこと。それこそが、時に絶好の機会となるのである。



