冷蔵庫を開けた瞬間にひらめいた自作アプリ
ウォータールー大学を卒業した後、彼はブラックベリーで4カ月間働き、その後アマゾンに入社。サプライチェーンエンジニアとして倉庫の在庫管理や出荷の統合によるコスト削減に携わった。しかし、自分の会社を持つことを夢見ていた彼は、2年間にわたって夜間と週末に20種類のスタートアップのアイデアを試した。食料品版Groupon、レストランの評価アプリ、さらには弁護士向けのSNSなどである。
食料品デリバリーアプリのアイデアが当時24歳のメータにひらめいたのは、サンフランシスコの自宅で冷蔵庫を開けた瞬間だった。中にはスリラチャソースのボトルが1本入っているだけだった。彼は数カ月でアプリの試作版を作り上げた。そして自ら商品の写真を撮り、自ら買い物をし、自身のUberアカウントを使って配達した。著名なアクセラレーターであるY Combinator(Yコンビネーター)には、応募期限に遅れたにもかかわらず2012年期(バッチ)の育成プログラムに採択された。アクセラレータープログラムの責任者に、自作アプリを使って6本入りのビールを届け、配達サービスが機能することを証明してみせたからだ。
その後の10年間、メータは度重なる破綻の危機からInstacartを救い出した。2017年に最大の取引先だったホールフーズ・マーケットがライバルのアマゾンに買収された後の方向転換、2020年のパンデミック初期の数週間で需要が5倍に膨れ上がった際の対応などである。
メータが初めてビリオネアとして登場したのは2021年のことで、推定純資産は35億ドル(約5500億円)だった。当時未上場だったInstacartの株式約10%を保有しており、同社はアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)やセコイア・キャピタル、コースラ・ベンチャーズなどの投資家から390億ドル(約6兆1300億円)の企業評価額を付けられていた。
「私は20年単位の勝負をしている」と、彼はその年Forbesに語った。「食料品は世界最大の小売カテゴリーだが、まだデジタル化されていない。私たちは未来に胸を躍らせている」
2021年7月、Instacartは初の外部CEOとしてフィジ・シモを迎えた。その後2年間、Instacartは非公開時代の評価額を維持することに苦戦した。Instacartがナスダックに上場した際、株価は初日の取引を時価総額110億ドル(約1兆7300億円)超で終えたが、これはピーク時の評価額の3分の1に満たなかった。同日、メータはあらかじめ計画していた通り会長職を退任し、シモが会長に就任した。
Instacartの経営の一線から退く際、メータはこう語っている。「Instacartは私のライフワークだった。しかし、これが当社の将来の事業にとってより良い長期的判断だという結論に至ったとき、迷わず決断することができた」


