ある企業の経営陣が、リスク回避的な文化を革新的な文化へと変えたいと考えている場面を想像してみてほしい。彼らはその任務を人事部に委ねる。人事チームは、企業文化を革新的なものへと変革するために、業績への期待を再定義し、人事評価基準を更新し、心理的安全性に関する施策を立ち上げ、調査を実施するなど、さまざまな手を打つ。
従業員は、会社が革新的になろうとしているというメッセージを繰り返し目にすることになる。人事チームが進めている取り組みにも気づいている。しかし同時に、全社的なタウンホールミーティングで、CEOが同僚のアイデアを「リスクが高すぎる」として公然と却下する姿も目撃する。また、他の経営幹部があらゆるパイロットプロジェクトに何重もの承認プロセスを追加していることにも気づくのだ。
やがて従業員は、自分のアイデアを口にしなくなる。物事の新しい進め方を探ることを避けるようになる。会社の文化は結局変わらない。リスク回避型のままである。
何が起きたのか。経営陣は革新的な文化を望むと口にしたが、その行動は違うことを示していた。彼らこそが組織の「暗黙の規範」を形作り、リスク回避が依然として期待されているのだ、リスクを取れば結果が伴うのだ、というシグナルを発していた。従業員にとって、その暗黙の規範は人事チームの取り組みよりもはるかに大きな声として響いていた。
さまざまな組織と仕事をするなかで、私はこのシナリオのバリエーションが繰り返されるのを見てきた。経営陣は自社の文化を変えたいと考える。「人事は人に関わる部門だから」という理由で、企業文化は人事の管轄だと思い込み、その仕事を委ねる。しかし現実は違う。文化とは、リーダーシップが繰り返し示し、報い、許容し、罰するものである。人事はそれを言語化できる。だが、それを決めるのはリーダーシップである。
価値観、規範、行動が企業文化を形づくる仕組み
一部のリーダーは、エンゲージメントと企業文化を混同しているように見受けられる。エンゲージメントは文化の「結果」であり、文化そのものではない。エンゲージメント調査で高いスコアを獲得している組織であっても、そのリーダーシップは脱却を目指しているはずの行動をまさに評価・優遇しているということが起こり得るのだ。
私の経験上、企業文化が実際にどのように形成されるかを説明するには、価値観(Values)、規範(Norms)、行動(Behaviors)という3つの要素が役立つ。このフレームワークは、私がクライアントとの業務で使用しているヒューマン・シナジスティックス(Human Synergistics)社の「組織文化インベントリー(OCI)」診断のアプローチとも一致している。
「価値観」とは、組織の理念である。組織のリーダーたちが優先していると公言するものであり、従業員ハンドブック、社内連絡、研修資料などに明記されている。
「規範」とは、組織における明文化されていないルールのことだ。リーダーが実際にお手本とし、報い、容認し、あるいは罰する行動を反映している。
「行動」とは、特定の瞬間において周囲から観察可能な、個人の具体的なアクションである。
リーダーが文化変革を自ら担うためのベストプラクティス
文化変革のオーナーシップはCEOから始まる。各機能部門のリーダーは、自分のチーム内でそれを体現する責任を負い、その説明責任は、その下の各リーダー層へと連鎖していく。すべてのリーダーは、文化変革を自ら担うために、いくつかのベストプラクティスを活用できる。
第一に、リーダーは実現したい文化変革の姿を明確にすべきだ。その変革は、具体的なビジネス成果や意思決定に結びついていなければならない。変革そのものを目的にすべきではない。一度に文化全体を刷新する必要はなく、スモールスタートでよい。例えば、掲げられている組織の価値観のうち、自分自身が例外を容認してしまっているものを1つ特定し、それを明確にして是正措置を講じた上で、その価値観を支える行動をチーム全体で定着させるといったことだ。
意味のある文化変革を果たすには、トップからの行動変容が不可欠である。リーダーは自身の行動を見直し、修正しなければならない。以前執筆したように、従業員はリーダーが実際にどう行動しているかを注視している。言葉だけで納得させることはほとんど不可能だ。リーダーの言動と行動の乖離を目にするたび、文化変革の試みは骨抜きにされてきた。
リーダーはまた、未来志向で文化を設計し、変化を組織全体に組み込むべきである。進行中のプロジェクトは、リーダーが築こうとしている文化を反映していなければならない。冒頭の例の会社に必要だったのは、CEOがタウンホールでアイデアを退けるのをやめること、そしてほかの経営幹部があらゆるパイロットプロジェクトに承認プロセスを重ねるのをやめることだった。従業員が意見を聞いてもらえていると感じているかを測る調査では、問題の本質を完全に見落としていただろう。同じ論理は広く当てはまる。競争から協力へ移行しようとする組織は、協働に直接報いるようにプロジェクトを設計すべきである。
最後に、リーダーは文化変革を継続的に測定すべきである。第三者評価のようなツールは、パルスサーベイや従業員インタビューなどのほかの手法と併せて役立つ。私はリーダーに対し、15〜18カ月ごとに進捗をベンチマークし、組織全体で進捗が遅く見えたり、ばらつきがあったりしても落胆しないよう勧めている。私の経験では、完全な文化変革には3〜5年ほどかかる。
人事は文化変革を支えられるが、リーダーが責任を持たねばならない
人事は文化変革において重要な役割を担う。すなわち、それを支え、促進する役割である。たとえば人事は、従業員が会社の望ましい文化に沿った行動で評価されるよう人事評価を見直し、管理職が新しい行動を体現し強化できるよう研修を行うことができる。
しかし、文化変革のすべての責任を人事だけに負わせてはならない。その責任は経営陣にある。文化変革は、リーダーが誰かに割り当てるような単なるプロジェクトであってはならないのだ。習慣を捨てることや厳しい予算判断を下すことなど、たとえ痛みを伴うものであったとしても、リーダー自らが責任を持ち、日々体現していくべきものである。



